第18章 真内くんの作戦
テストが終わってからの一週間は、あっという間。もうすぐ夏休みというソワソワした空気が学校中を覆っている。気が付けば明日は終業式。
「銀と哀咲さんのクラス、明日花火やるんだって?」
「いいよなー、担任が太吉先生って」
「なんか悔しいから残された俺ら三人でカラオケでも行こうぜ」
「あ、いいねいいね!」
放課後の部室。いつもと変わらない吉澄さん達の緩い会話が流れて行く。その心地良い空気を感じながら、ちらりと視線を窓の外に向けた。
グラウンドに点在するサッカー部のユニフォーム。その間を走り回る、ジャージ姿の鈴葉ちゃんを見つける。
――フラれるのわかってたけどちゃんと気持ち伝えてよかった。
そう言って笑った鈴葉ちゃんの澄んだ顔を思い出した。
鈴葉ちゃんはもう、苦しくなったり、泣いたり、していないのかな。
鈴葉ちゃんの姿を追いかけていると、鈴葉ちゃんが一人の部員の前に止まった。その部員――颯見くんが、クシャッと笑って鈴葉ちゃんと何か話している。
それを見て、ぎゅうっと心臓が強く押し潰される。
私は、まだ、苦しい。
「あ、そうだ、私今日用事あるんだった!」
押し潰れそうな脳内に、吉澄さんの明るい声が飛んできた。
窓から目を離して吉澄さんを見ると、吉澄さんはニコっと笑って視線を西盛くんと洲刈くんに移す。
「あっ! そうだ俺も用事あるんだ!」
「あー! 俺も俺も!」
不自然なくらい目を泳がせながら二人が便乗する。
「ってことで、私達帰らないといけないから、銀が哀咲さん送ってね!」
吉澄さんはなんだか楽しそうにそう言って、真内くんに向けてウインクした。
「は?」
真内くんが短く不機嫌そうな声を落とす。だけど吉澄さんはそんなこと気にしていないようで、ピョンピョンと跳ねながら楽しそうに鞄を持った。
「そんじゃ、頑張ってねー!」
「頑張れよー」
「ファイト!」
吉澄さんに続いて西盛くんと洲刈くんもニヤリと笑って、駆け足で部室を出て行ってしまった。
真内くんと二人、突然取り残される。
吉澄さん達が何に対して頑張れと言っていたのかはよくわからない。
真内くんに視線を向けると、チラリと真内くんも私を見て、深いため息を吐いた。
「……行くか」
面倒そうに鞄を肩にかけた真内くんに続いて、私も鞄を持つと、真内くんが歩き出す。その後ろについて、部室を出た。
吹奏楽の楽器の音が遠くに聞こえる、誰もいない廊下。運動部の掛け声も飛んでくる。
気付けば半歩前にいた真内くんは隣を歩いてくれていて、いつもこうやって歩調を合わせてくれているんだなぁとありがたく思う。
隣に並んでも会話は無い。無言のまま廊下を進んで、靴箱へ向かい、ローファーに履き替えて昇降口を出た。
昇降口を出て真っ直ぐ先に校門がある。だけど、真内くんは右に曲がった。
あれ?、と思ったけど、何か用事があるのかもしれない、とそのまま真内くんについていく。
この方向の先にあるのはグラウンド。だんだんと、運動部の快活な声が近くなってくる。
真内くんはどこに行こうとしてるのかな。不思議に思いながら、並んで真内くんの進む方向へ歩いていくと、隣の気配がグラウンド前の階段で止まった。
何も言わないまま、その階段に座り込んだ真内くん。
あ、どうしよう。私も座るべきなのかな。
どうしたらいいか考えながら、膝を小さく曲げ伸ばししていると、真内くんが体をひねって振り向いた。
「座ったら」
それだけ言って、また前を向く。
よくわからないまま、言われた通り、真内くんの隣に腰を落とした。
テストが終わってからの一週間は、あっという間。もうすぐ夏休みというソワソワした空気が学校中を覆っている。気が付けば明日は終業式。
「銀と哀咲さんのクラス、明日花火やるんだって?」
「いいよなー、担任が太吉先生って」
「なんか悔しいから残された俺ら三人でカラオケでも行こうぜ」
「あ、いいねいいね!」
放課後の部室。いつもと変わらない吉澄さん達の緩い会話が流れて行く。その心地良い空気を感じながら、ちらりと視線を窓の外に向けた。
グラウンドに点在するサッカー部のユニフォーム。その間を走り回る、ジャージ姿の鈴葉ちゃんを見つける。
――フラれるのわかってたけどちゃんと気持ち伝えてよかった。
そう言って笑った鈴葉ちゃんの澄んだ顔を思い出した。
鈴葉ちゃんはもう、苦しくなったり、泣いたり、していないのかな。
鈴葉ちゃんの姿を追いかけていると、鈴葉ちゃんが一人の部員の前に止まった。その部員――颯見くんが、クシャッと笑って鈴葉ちゃんと何か話している。
それを見て、ぎゅうっと心臓が強く押し潰される。
私は、まだ、苦しい。
「あ、そうだ、私今日用事あるんだった!」
押し潰れそうな脳内に、吉澄さんの明るい声が飛んできた。
窓から目を離して吉澄さんを見ると、吉澄さんはニコっと笑って視線を西盛くんと洲刈くんに移す。
「あっ! そうだ俺も用事あるんだ!」
「あー! 俺も俺も!」
不自然なくらい目を泳がせながら二人が便乗する。
「ってことで、私達帰らないといけないから、銀が哀咲さん送ってね!」
吉澄さんはなんだか楽しそうにそう言って、真内くんに向けてウインクした。
「は?」
真内くんが短く不機嫌そうな声を落とす。だけど吉澄さんはそんなこと気にしていないようで、ピョンピョンと跳ねながら楽しそうに鞄を持った。
「そんじゃ、頑張ってねー!」
「頑張れよー」
「ファイト!」
吉澄さんに続いて西盛くんと洲刈くんもニヤリと笑って、駆け足で部室を出て行ってしまった。
真内くんと二人、突然取り残される。
吉澄さん達が何に対して頑張れと言っていたのかはよくわからない。
真内くんに視線を向けると、チラリと真内くんも私を見て、深いため息を吐いた。
「……行くか」
面倒そうに鞄を肩にかけた真内くんに続いて、私も鞄を持つと、真内くんが歩き出す。その後ろについて、部室を出た。
吹奏楽の楽器の音が遠くに聞こえる、誰もいない廊下。運動部の掛け声も飛んでくる。
気付けば半歩前にいた真内くんは隣を歩いてくれていて、いつもこうやって歩調を合わせてくれているんだなぁとありがたく思う。
隣に並んでも会話は無い。無言のまま廊下を進んで、靴箱へ向かい、ローファーに履き替えて昇降口を出た。
昇降口を出て真っ直ぐ先に校門がある。だけど、真内くんは右に曲がった。
あれ?、と思ったけど、何か用事があるのかもしれない、とそのまま真内くんについていく。
この方向の先にあるのはグラウンド。だんだんと、運動部の快活な声が近くなってくる。
真内くんはどこに行こうとしてるのかな。不思議に思いながら、並んで真内くんの進む方向へ歩いていくと、隣の気配がグラウンド前の階段で止まった。
何も言わないまま、その階段に座り込んだ真内くん。
あ、どうしよう。私も座るべきなのかな。
どうしたらいいか考えながら、膝を小さく曲げ伸ばししていると、真内くんが体をひねって振り向いた。
「座ったら」
それだけ言って、また前を向く。
よくわからないまま、言われた通り、真内くんの隣に腰を落とした。
