翌日の放課後、部活動へ行くために教室を出ようと席を立つと、哀咲さん、と聞きなれた声に呼ばれた。



見ると、教室の入り口から吉澄さんの顔がひょっこり覗いている。



「チョコ買いに行こー!」



そんな風に教室の入り口から誘われる、なんてことが嬉しくて、思いきり頷いた。



「チョコ? 何、どういうこと?」



部活動の準備をちょうど終えた倖子ちゃんが、私と吉澄さんの顔を交互に見る。



「明日バレンタインだから、そのためのチョコだよ!」



私の代わりに、吉澄さんが答えた。



それを聞いて、倖子ちゃんの視線が私にとまる。



「それってまさか……」



その意味はたぶん、颯見くんにチョコを渡すのかって訊いてるんだと思う。



義理チョコで渡すんだから頷くべきか迷ったけれど、否定するのはおかしいような気がして、ゆっくり頷いた。



その瞬間に、倖子ちゃんが「マジで!?」と声を張り上げたから、教室にいる人も廊下で歩いている人までもが、振り返った。



「なんで言ってくれなかったの!?」



私の所まで早足でやってきて、両肩を掴まれる。



「あたしも一緒に行きたかったあ」



うな垂れる倖子ちゃんをあとに、腕を引かれ教室を出た。