消極的に一直線。【完】

~倖子side~

 
 パラパラとまばらな人口密度の図書室で、もう定位置となってしまった、一番奥の一番目立たないテーブル。
 テスト一週間前になると、放課後そこで雫とテスト勉強をするのが、当たり前の習慣になっていた。

 今回も同じ。憎き期末テストまでもう一週間もない。
 向かいに座って黙々とシャーペンを走らせている雫にチラリと目をやった。

 雫は、あの日、颯見に釘を刺されたと言っていた。あたしは颯見に超ムカついて、ひっぱたきに行こうと思ったけどそれは雫に止められて。
 雫を苦しめる颯見も、中雅鈴葉も、そして苦しんでる雫に何もしてやれないあたしも、ムカつく。

 何も知らない呑気な太吉先生は、颯見に雫を保健室まで連れて行かせたりするし。

 だけどあの時。あたしは、わからなくなった。

 ねぇ、雫。
 颯見は本当に釘を刺したの?
 颯見の好きな人は本当に中雅鈴葉なの?

 保健室のベッドに眠る雫に向けられた颯見の視線。傷付いたような切ない表情で、愛おしそうな優しい目を向けていた。

 まるで、颯見は雫が好きで、颯見が雫にフラれたみたいな――。

 わからない。本当に。 
 だけど、記憶を辿れば辿るほど、颯見の好きな人は雫なんじゃないかと思えてきて。
 
 颯見は中雅鈴葉が好きだって、みんな言ってる。誰も疑わない。だから、私もそうだと疑わなかった。
 
 だけど、もしその話が違ったら?
 
 一年の時、颯見がよくクラスへ訪ねに来て雫に話しかけていたのも。
 体育祭で雫にだけいちごミルク渡してたのも。
 初詣のときも。練習試合の帰りも。クラス会も。雫が風邪の日も。隣の席になってからも。

 思い返してみれば、颯見の行動は、雫を好きだとしか思えない。

 颯見が中雅鈴葉を好きだという“大前提”が無ければ、だけど。
 その“大前提”は、本当に合ってるの? 誰が決めたの? 颯見が自分で言ったの?

 誰もが疑わなかったそれを、あたしは疑うようになった。
 あたしは雫の友達だし、希望的観測……なのかもしんないけどさ。

 だって。二年で雫と同じクラスになってから、颯見、朝羽のクラスに行ったことないじゃん。一年の時はあんなにウザいぐらい来てたのに。
 休み時間、男子と話してても絶対雫に話しかけるし。
 最近だって、雫は気まずそうに颯見を避けてるのに、あいつ、傷付いたような顔しながらめげずに雫に話しかけてる。
 釘を刺したやつが、そんなことする?

 別に、雫が嘘をついてるとか、そういう話じゃない。何かが拗れてるんじゃないかって、そう思えてくる。
 だって、“大前提”さえなければ、誰が見ても一目瞭然。バカなぐらいまっすぐ、颯見は雫が好き、にしか見えないよ。

 まぁ、その“大前提”が厄介なんだけどさ。
 わかんない。ああもうほんとに。

「ぜんっぜんわかんないわ」

「ん? えっと、どの問題?」

 雫に視線を向けられて、はっと我に返った。

「あ、いやごめん。気にしないで」

 キョトンとした顔を向ける雫に苦く笑って、広げたままになってる問題集に視線を落とした。
 雫がそれを見届けて、また自分の勉強を始めたのを視界の端で確認して、再びそっと視線をあげる。

 雫。本当にこのままでいいの? 諦めるの?
 自分が動かなきゃ、何も変わらないよ。

 もし、本当に、颯見が雫を好きだったとして。そしたら、こんな風に終わるの、もったいないよ。

 だけど、そんなこと言えない。今の雫に言っても、きっと傷付けるだけ。
 
 だから、もし、何かきっかけがあったら、私がそれを見逃さない。無理やりでも、雫の背中を押すことに決めた。


~倖子side end~