教材室の窓から見える景色が、白くキラキラと光っている。



もう二月の半ばになるのに、前日の夜に降った雪がまだ消えない。



白く色付いたグラウンドに、たくさんの足跡が刻まれていく様子を眺めて、やっぱり、目が一人を追ってしまう。



体育倉庫の裏で話したあの日以来、颯見くんは、またよく十二組の教室に顔を出すようになった。



私が「辛い状況で」なんて話をしたから、心配してくれているのかもしれない。



なんて、自意識過剰なのかな。



「哀咲さん、明後日はバレンタインだね!」



吉澄さんが、窓と私の間にひょこっと顔を覗かせて言った。



「颯見くんにチョコ渡さないの?」



訊かれて、ドクン、と胸が音を鳴らす。



そんなこと考えてもなかった。



だって、ついこの前、朝羽くんと話をした。もう、好きでいたらダメだって。



渡せない。渡せるわけない。
渡しちゃいけないんだ。



静かに首を横に振ると、吉澄さんは眉をハの字に下げた。



でもそれは一瞬のことで、すぐ目を見開いて瞳を輝かせる。



「義理チョコって言って渡せばいいよ! 仲良いんだから渡したって全然おかしくない!」



パッと両手で手を握られて、握手してるみたいに、大きくブンブンと揺らされる。



「確かに、お礼とかこれからよろしくって意味でも渡しておいた方がいいと思う」



バリバリとスナック菓子を頬張りながら、西盛くんが付け足した。



「逆に渡さないと失礼なんじゃないかな?」



笑顔の洲刈くんにそう言われてみると、なんとなくそんな気もした。



「あんたら……」



本から視線を上げて、真内くんが何かを言おうとしたけれど、「てことで」と続ける吉澄さんの声に消されてしまった。



「明日の放課後、チョコの材料買いに行こう!」



吉澄さんの有無を言わさない空気にのまれて、気がついたら頷いていた。