「十二組って、すげぇ遠いな」


 朝羽くんに向けて、くしゃりと笑ったその笑顔に、やっぱり視線が囚われる。


 春風みたいな人。彼――“アラシ”くんが、そこにいる。

 教室の入り口から、彼が歩いてくる。


 もちろんそれは、私の斜め前の朝羽くんのところへ向かおうとしているわけで、決して私のところへ来るわけではないけれど。

 必然的に近くなっていく距離を感じて、なんだか緊張する。

 思わず、気づかれないように顔を俯けた。


 彼の気配がどんどん近づいてきて、ガラガラっと私の前の席に座った。

 私の前の席というより、朝羽くんの隣の席だから、そこに座っただけなのはわかってる。

 でも、すごく近くに彼がいると思うと、俯いたままの顔を上げることができなくなった。