だけど、颯見くんの顔が、怪訝そうに歪む。



「辛い状況?」



少し不安も混ざったような声に、また心配をかけてしまってると気づく。



慌てて、口を開いた。



「その状況は、誰かが悪いとかじゃなくて、私の心の中の問題で、私の中だけの問題で、」



フッと、形のいい口から息を漏らす音が聞こえた。



「そっか」



颯見くんが柔らかく笑って、頬杖をついていた手を離す。



「こんな所連れてきてごめんな」



言われて、思いっきり首を横に振った。



私を気遣って、心配して、やってくれたこと。


友達だから。



私を友達として大切に思ってくれているんだって思ったら、嬉しいはずなのに。



感覚の無くなりかけた指先に、冷たい風があたる。



「寒いよな。戻ろっか」



颯見くんがゆっくり立ち上がる。



あ。まだ。待って。



急に、心の中にそんな言葉が湧いた。



ハッとして、その言葉を無理やり押し込める。



私はそんなこと思っていい立場じゃない。



颯見くんは、早く戻って鈴葉ちゃんの所へ行きたいはずだから。



「うん。ありがとう」



小さく言うと、颯見くんは控えめに微笑んで、先に歩き出した。