泣きたかったのは朝羽くんも同じ。



朝羽くんは、鈴葉ちゃんと颯見くんに近い分、きっと私よりも辛い。



切ない朝羽くんの横顔が思い出される。



「そっか」



ススっと服の擦れる音が耳に入って、視界に、しゃがみこんだ颯見くんの姿が映った。



「じゃあ、なんで泣いてた?」



膝に頬杖をついて、私の顔を見上げる颯見くん。



視線が繋がって、またドクンと音が鳴ったけど、その視線がなんだか優しくて、目を離すことができなくなってしまった。



「えっと、」



でも、泣いてしまった本当の理由なんて、言えるわけない。



颯見くんのことが好きだけど叶わない思いだから泣いてしまった、なんて。



「えっと、」



どう答えようかと思考を巡らせている間も、ずっと送られてくる颯見くんの優しい視線。



それどころじゃないのに、勝手に身体が熱くなる。



もう耐えられない気がして、その視線に誘われるようにしゃがみこんだ。



必然的に近づいた、颯見くんの顔。



その距離が思ったよりも近くて、鼓動が揺れる。



そんなことばかりに意識がいって全く答えようとしない私に手こずってか、颯見くんがそのくしゃっとした髪に片手を当てた。



整った顔が半分隠れて、繋がっていた視線も解かれる。



だけど、すぐにその手は髪から離れて、再び視線が繋がった。



「ここには他に誰もいねーから大丈夫。ゆっくりでいいから、聞かせて?」



真っ直ぐだけど、優しい目。



その視線に鼓動が鳴るのを聞きながら、思考回路を働かせる。



嘘はついたらいけない気がする。ついてもすぐに嘘だとわかられてしまいそう。



必死に思考を巡らせた結果、導き出した回答を、ゆっくりと吐き出した。



「朝羽くんと私は、置かれている状況が、似ていて、二人とも、とても辛い状況で、」



また、朝羽くんの切ない横顔が頭に浮かぶ。



「朝羽くんは、私と、そんな辛い気持ちを、共感し合ってただけ、だよ」



颯見くんの顔を目の前にしながら、こんなことを話すのは、なんだかすごく不思議な気分。



上手く答えられたかわからないけれど、一通り言い終わって、小さく安堵した。