消極的に一直線。【完】

 静かな部屋に、ガラガラ、とドアの音が響いた。

「あー寺泉か」

「雫は?」

「寝てる」

 スタ、スタ、と颯見くんが離れていく音と、倖子ちゃんの少し不機嫌そうな声。

「先生は?」

「留守」

「は!?」

 前まではこんなに険悪な会話じゃなかったのに、これも私のせいだ。

「ちょっと待って颯見、まさかずっと二人でいたの?」

「そうだけど、別に変なことしてないから安心して」

「いや、そういうのじゃなくて!」

 声を荒げる倖子ちゃんから、私を心配してくれてる気持ちが痛いほど伝わってくる。
 私が颯見くんを好きじゃなかったら、こんな風に倖子ちゃんが颯見くんを敵対視することもなかったのに。私のせいでこうなってしまった。

「……颯見、あんたが考えてること全然わかんないよ」

「……うん。それでいい」

 それ以上の会話はなくて、きっと颯見くんは保健室を出て行ったんだと理解した。

 また、静かになる保健室。
 
 倖子ちゃんも帰ったのかな。
 そう思ったら、スタ、スタ、と颯見くんのとは違う足音が近づいてきて、ポスッとベッドの左側が揺れた。

「雫、ごめんね」

 優しく落ちてきた倖子ちゃんの声。
 それが耳に届いた瞬間に、たくさんの感情がぐちゃぐちゃに混ざって、喉の奥にぐっと詰まった。
 鼻の奥がツンと痛くなって、閉じた瞼の裏が熱く潤ってくる。

 泣いてはだめ。絶対にだめ。
 そう思うのに、どんどん湧いてくる。

 止まってほしい。もうこれ以上倖子ちゃんに心配をかけたくない。寝ていたことにしたい。何も気付かれたくない。
 拳を握りしめて、喉の奥に力を入れて、何とかギリギリのところを踏みとどまる。

「ただいまー。誰かいるのかしら?」

 保健室の先生の甲高い声が響いて、パサ、と倖子ちゃんが立ち上がったのがわかった。
 その瞬間に、ふわっと緊張の糸が緩んで、喉の奥の力がすぅっと抜けていった。

「あ、先生。この子、具合悪くて寝かせてます」

「あら、えーっと、」

「哀咲さんです。私は友達で付き添いです」

「あらまあ。貧血かしら?」
 
「いいえ、顔色が悪かったみたいで先生が――」

 紡がれていく会話を耳に流しながら、安心感に揺られて、急激に思考が閉ざされていく。

 そういえば最近はよく眠れていなかったなぁ、なんて遠くなる意識の向こうで考えながら、重くなる瞼に身を委ねた。