中庭を抜け、校舎を横切り、裏山を歩く。



聞こえるのは、ザクッザクッと霜の降りた地を踏む靴の音と、自分の鼓動だけ。



進んでいく颯見くんの背中に、ただ黙ってついていく。



その背中の反対側で、颯見くんは、どんな表情を浮かべているんだろう。



進むたびに不安が募っていく。



颯見くんは、朝羽くんが私を泣かせたと勘違いしてる。



例えば、朝羽くんが私に嫌なことを言っているように見えたのかもしれない。


もしかしたら、イジメだと思ったのかもしれない。



だから、颯見くんは朝羽くんに怒って、私をあの場から救おうと連れ出したんだ。



早く、誤解を解かなきゃ。


私のせいで、仲のいい颯見くんと朝羽くんが、仲違いするようになったら、すごく、嫌だ。



早く、早く、言わないと。



さぁ、と意を決した瞬間、前を歩く颯見くんが立ち止まった。



いきなりのタイミングで、思わずはっと息がもれる。



颯見くんに合わせて止まると、そこは体育館倉庫の裏だった。



颯見くんが、少し薄汚れたコンクリートの壁に、背をもたれ掛ける。



風が吹いて、颯見くんの黒い髪がふわっと揺れる。



その視線がゆっくりと私に向けられて、ばちっと目が合った。



ドクンと緊張が走って、どうすればいいかわからずに、思わず目を下に逸らす。







無言の、時間。



ドク、ドク、と鼓動の音だけが耳に響いて、緊張を煽っていく。



時間が、異様なほど長く感じる。






でも、私は、早く誤解を解かなきゃいけない。


ぎゅっと、制服のスカートを握りしめた。



「あ、あの、」



ガサ、と颯見くんの服の擦れる音が、耳に届く。



「朝羽くんは、何も、悪くない、よ」



言いながら、そうっと視線を上げてみた。



颯見くんは、黙って私の話を聞こうと目を向けてくれている。



でも、その目とまた視線が繋がってしまって、慌てて下を向いた。



「朝羽くんは、何も、してない」