ノートを教卓に持っていく人がいなくなって、ノートのタワーが完成したのを見届けて。



自分の課題のノートを鞄から出し席を立つと、斜め前の朝羽くんが、同じタイミングでガラっと立ち上がった。





「哀咲さん、」



練習試合の日以来、あまり話すこともなかったから、声を掛けられて、少し身体に力が入る。



「僕も手伝うよ」



そう言われたけれど、先生が指名したのは私。



朝羽くんに迷惑をかけるのは、なんだか忍びなくて、大きく首を横に振った。



「いや、でも、生徒に雑用押し付けるのって、どうかと思うし」



弟がそういうのフォローしないとね、と言われて、そういえばあの先生は朝羽くんのお兄さんだったということを思い出す。



朝羽くんと同じ苗字だから、下の名前で太吉(たきち)先生と呼ばれてる。


数学教師で、生徒との距離が近くて、親しみやすい先生。



「それから、哀咲さんと少し話がしたくて」



付け加えた朝羽くんの表情が少し曇った気がして、ゆっくりと首を縦に振った。