「哀咲が、どんなふうにカズに渡したのか、すげー気になる」



はは、と笑った颯見くんを見て、ドクドクと嫌な音をたてていた鼓動がおさまった。



そっか。
朝羽くんと二人でいたところに、居合わせたわけじゃなかったんだ。



「カズはいいやつだよ。ほんと」



颯見くんが、くしゃっと笑う。



「優しいし、面倒見もいいし、真面目だし」



だけど、だんだんと颯見くんの表情が、少しだけ、寂しげに見えた。



「でも、カズは鈴葉のことが……」



そこまで言って、急に立ち止まった。



私もそれに合わせて立ち止まる。



颯見くんの言いたいことが、わかってしまった。


颯見くんの気持ちが、わかってしまった。



「いや、ごめん、なんでもない」



そう言って、何事も無いように笑顔を見せて、もう一度歩き出す。



ちくちくと、小さな針を刺されたみたいに、胸が痛い。



颯見くんは、朝羽くんが鈴葉ちゃんを好きなこと、知ってるんだ。



そうしたら、いつも颯見くんは、どんな思いでいるんだろう。



颯見くんのことが好きな私は、なんて声を掛けたらいいのか、わからない。



右半身にざわつきを感じながら、静かな住宅地を進んでいく。



静かな、静かな、帰り道。



結局、家まで送ると颯見くんは言ってくれたけれど、なんだかおこがましくて、丁重に断った。



それぞれの方向へ別れて、一人、路地を歩いていると、やっぱりもう少し一緒にいたかった、なんて厚かましい思いが湧いてきた。



もう、こんなにまで、颯見くんの思いを目の当たりにしているのに。



颯見くんが、鈴葉ちゃんを好きだという、思い。



私の思いは、自分勝手すぎる。