クラス会はとても賑やかに盛り上がって、楽しく時間が過ぎていく。

 飲んでいたオレンジジュースが空になって、飲み物を入れてこようと部屋を出た。
 部屋のドアが閉まった瞬間に、賑やかさから隔離された空間になる。

 両隣にドアが並ぶ廊下を歩いていく。
 このドアの向こうで、みんなそれぞれに、楽しい時間を過ごしているんだ。
 そんな当たり前のことを考えながら、飲み物を入れる機械にたどり着く。

 コップを置いて、オレンジジュースのボタンを押した。

「オレンジジュース、好きなの?」

 その声に、トクンと胸が鳴って、はっと振り返る。

「俺も、コーラなくなったから入れに来た」

 そう言って空のコップを見せた颯見くんに、また胸が鳴った。

 颯見くんが、こんなに近くにいる。他に人はいない。私と颯見くんの二人きり。
 たったそれだけのことで、鼓動がうるさくなる。

「哀咲と同じクラスになれて、よかった」

 颯見くんの視線が真っ直ぐ刺さって、動けなくなった。
 体が心臓に支配されたみたいに、ドクドクと脈を打つ。

「俺さ、」

 颯見くんが、その黒髪にクシャッと片手を当てて、彼の顔が半分隠れた。

「もっと、哀咲の近くにいきたい」

 スッと片手を下ろして、また視線が繋がる。
 ドクン、ドクン、と、自分の心臓の音だけが、響いている。時間が止まって、息をすることすら忘れそうになった。

 しばらくして、吐き出した息とともにゆっくりと思考回路が動き出す。

 これは、いったい、どういう意味なんだろう。

 颯見くんの表情からは何も読み取れなくて、都合の良い私の脳は、勝手に私が嬉しい方へ解釈しようとする。

「おーい颯見ー!」

 パタパタっと男子が駆け寄る音が聞こえて、ハッと颯見くんから視線を逸らした。

「帰ってこないから呼びに来た」
 
「そんな時間経ってねーだろ」

「あれ、哀咲さんもいるー」

 言われて慌てて、結構前に注がれ終わっていただろうオレンジジュースを手にとった。
 部屋に戻ろうと、俯きがちに頭を下げる。

「あ、哀咲!」

 進みかけた足を、颯見くんの一声に止められた。
 まだ早いテンポで刻まれたままの鼓動を耳で聞きながら、ゆっくり振り返る。

「さっき、頑張ったな!」

 クシャッと笑った、いつもの颯見くんの笑顔。
 揺れる心臓。

 やっぱり、私は颯見くんが好き。好きだから、きっと、何でもないことに期待したくなってしまうんだ。何でもない一言一言に、一喜一憂してしまう。

「なぁなぁ颯見、ペプシとコーラどっちが良いと思う?」

「絶対コーラだろ」

 歩きながら、頭の後ろから聞こえる会話に、颯見くんはコーラが好きなんだなぁって。そんなことまでインプットして。
 高鳴ったままの胸の音に知らんぷりしながら、早足でその場を去った。