~和仁(カズ) side~
「あの、朝羽くん! 好きです。付き合ってください」
春休みの部活終わり。
待ち伏せされていて、話があると連れて来られた体育館裏で告白された。
「ありがとう。気持ちは嬉しい」
これから言わなければいけない言葉に胸が痛む。
「だけど、君の気持ちには応えられない。ごめん」
相手は毎度違うけど、もう何度このセリフを言ったかわからない。
「そう……ですか」
明らかに傷ついた顔で笑ってみせるその女子に、あぁまただ、と苦しくなる。
「さ、サッカー、応援してますから!」
ごめん。本当にごめん。
「ありがとう」
走り去っていく名前も知らない女子の背中を見送りながら、こういう時にどう対応したら良いのか未だにわからない自分に腹が立つ。
この瞬間が、一番嫌いだ。
その子の気持ちが、僕には痛いほどわかる。好きな人が、自分のことを好きになってくれない気持ち。
僕も同じだから。
僕の好きな人――鈴葉は、嵐のことが好きだ。
親同士が学生時代からの友達で、家が近かったこともあり、僕と嵐と鈴葉は生まれた時からの幼馴染。
幼稚園の頃には、もう僕と嵐は鈴葉を取り合う仲だった。
鈴葉が何かを欲しがったら、競ってそれを手に入れようとしたし、鈴葉が「背の高い人がカッコいい」と言えば、背の高さを競い合った。
サッカーを始めたのも、鈴葉がサッカーの試合中継を見て「カッコいい」と言ったからだ。
幼い時からの鈴葉への想いは、歳を重ねるごとに大きくなっていった。それは、たぶん嵐も同じだったんだと思う。
だけど鈴葉は、僕ではなく嵐を好きになっていた。
わかりやすいんだ、鈴葉は。
僕は知ってる。
バレンタインのチョコを、嵐に渡すときだけ少し緊張していること。
部活の時は、嵐ばかりチラチラ目で追っていること。
逆に、嵐が鈴葉のことを好きだと決定的に確信したのは、中学の時だ。
当時、鈴葉は塾に通っていて、たまたま嵐が傘を届けに鈴葉の通う塾へ行った日、ガラの悪い男子に囲まれナンパされていたらしい。
嵐は、その日以降、欠かさず鈴葉を塾まで送り迎えするようになった。
どんな日でも、どんな時でも、たとえ熱があっても――。
鈴葉と嵐の距離が近づいていくことに焦りを感じて、交代で送り迎えしないかと嵐に提案したら。
“いや、いい。俺が守るから安心しろ”
“けど、嵐。僕だって……”
“カズには譲らねーよ”
その時の嵐の顔が、あまりに真っ直ぐで、不覚にも男らしくて、僕は何も言えなくなった。
負けた、と思った。
負けず嫌いで、いつも真っ直ぐな嵐に、僕が敵うはずがなかった。
僕はただそれを僻むだけしかできない。弱くて狡い。
あの時もそうだ。
哀咲さんが嵐のことを好きだと気付いて、哀咲さんが練習試合を見に来たり、差し入れを持って行こうとしているのを見て。
僕は同じ状況でも、こんなに辛くて苦しいのにって。真実を知って、僕と同じように苦しんでよって。そんな気持ちだったと思う。
哀咲さんの気持ちなんか考えずに、ただ八つ当たりしていたんだと思う。
哀咲さんを泣かせてしまうまで、嵐に怒られるまで、僕は無意識にそんな心を使っていた。
僕は、鈴葉が大切だと言っている友達を、泣かせてしまった。
嵐なら、鈴葉が大切に思っているものを、絶対に蔑ろにしない。
そういう所が、僕と嵐は違う。
敵わない。
悔しいのに、そんな嵐のことが僕も幼なじみとして好きだ。
一緒にいて楽しくて、心を許せる。そんな嵐のことを嫌いになんてなれるわけがない。
いっそ、嵐が心変わりして哀咲さんのことを好きになってくれたら。
そんなあり得ないことを考える自分を嘲笑した。
~和仁side end~
「あの、朝羽くん! 好きです。付き合ってください」
春休みの部活終わり。
待ち伏せされていて、話があると連れて来られた体育館裏で告白された。
「ありがとう。気持ちは嬉しい」
これから言わなければいけない言葉に胸が痛む。
「だけど、君の気持ちには応えられない。ごめん」
相手は毎度違うけど、もう何度このセリフを言ったかわからない。
「そう……ですか」
明らかに傷ついた顔で笑ってみせるその女子に、あぁまただ、と苦しくなる。
「さ、サッカー、応援してますから!」
ごめん。本当にごめん。
「ありがとう」
走り去っていく名前も知らない女子の背中を見送りながら、こういう時にどう対応したら良いのか未だにわからない自分に腹が立つ。
この瞬間が、一番嫌いだ。
その子の気持ちが、僕には痛いほどわかる。好きな人が、自分のことを好きになってくれない気持ち。
僕も同じだから。
僕の好きな人――鈴葉は、嵐のことが好きだ。
親同士が学生時代からの友達で、家が近かったこともあり、僕と嵐と鈴葉は生まれた時からの幼馴染。
幼稚園の頃には、もう僕と嵐は鈴葉を取り合う仲だった。
鈴葉が何かを欲しがったら、競ってそれを手に入れようとしたし、鈴葉が「背の高い人がカッコいい」と言えば、背の高さを競い合った。
サッカーを始めたのも、鈴葉がサッカーの試合中継を見て「カッコいい」と言ったからだ。
幼い時からの鈴葉への想いは、歳を重ねるごとに大きくなっていった。それは、たぶん嵐も同じだったんだと思う。
だけど鈴葉は、僕ではなく嵐を好きになっていた。
わかりやすいんだ、鈴葉は。
僕は知ってる。
バレンタインのチョコを、嵐に渡すときだけ少し緊張していること。
部活の時は、嵐ばかりチラチラ目で追っていること。
逆に、嵐が鈴葉のことを好きだと決定的に確信したのは、中学の時だ。
当時、鈴葉は塾に通っていて、たまたま嵐が傘を届けに鈴葉の通う塾へ行った日、ガラの悪い男子に囲まれナンパされていたらしい。
嵐は、その日以降、欠かさず鈴葉を塾まで送り迎えするようになった。
どんな日でも、どんな時でも、たとえ熱があっても――。
鈴葉と嵐の距離が近づいていくことに焦りを感じて、交代で送り迎えしないかと嵐に提案したら。
“いや、いい。俺が守るから安心しろ”
“けど、嵐。僕だって……”
“カズには譲らねーよ”
その時の嵐の顔が、あまりに真っ直ぐで、不覚にも男らしくて、僕は何も言えなくなった。
負けた、と思った。
負けず嫌いで、いつも真っ直ぐな嵐に、僕が敵うはずがなかった。
僕はただそれを僻むだけしかできない。弱くて狡い。
あの時もそうだ。
哀咲さんが嵐のことを好きだと気付いて、哀咲さんが練習試合を見に来たり、差し入れを持って行こうとしているのを見て。
僕は同じ状況でも、こんなに辛くて苦しいのにって。真実を知って、僕と同じように苦しんでよって。そんな気持ちだったと思う。
哀咲さんの気持ちなんか考えずに、ただ八つ当たりしていたんだと思う。
哀咲さんを泣かせてしまうまで、嵐に怒られるまで、僕は無意識にそんな心を使っていた。
僕は、鈴葉が大切だと言っている友達を、泣かせてしまった。
嵐なら、鈴葉が大切に思っているものを、絶対に蔑ろにしない。
そういう所が、僕と嵐は違う。
敵わない。
悔しいのに、そんな嵐のことが僕も幼なじみとして好きだ。
一緒にいて楽しくて、心を許せる。そんな嵐のことを嫌いになんてなれるわけがない。
いっそ、嵐が心変わりして哀咲さんのことを好きになってくれたら。
そんなあり得ないことを考える自分を嘲笑した。
~和仁side end~
