サッカー部がまだ登場していないグラウンドに、コートの白い線が引かれていく。



「そろそろかなー」



倖子ちゃんが呟いた直後、わーっと喧騒に包まれて、サッカー部の人たちがグラウンドに出てきた。



「朝羽くーん!」



横断幕を持っている女の子たちの高い声が、耳に入ってきた。



「あ」



思わず、声が漏れてしまった。



ふんわりした黒髪。
くしゃっと笑った横顔。



ドクンと、胸の奥で音が鳴る。



「嵐くーん! がんばって!」

「颯見ーっ!」



どこからか、颯見くんに向けられた女の子たちの声が、甲高く響いた。



「よくあんな高い声出せるねぇ」



倖子ちゃんが隣で、鬱陶しそうに呟く。



「ああいうの、苦手だわ」



マフラーに顔をうずめて、寒そうに手を擦り合わせる倖子ちゃんを見て、申し訳なく思った。



私のせいで、休日に寒い中、ついてこさせてしまった。



ごめんね、と言おうとして、倖子ちゃんの寒そうな手から視線を上げると、倖子ちゃんが、あ、と声を漏らした。



「中雅鈴葉……」



顔を歪ませて見つめる視線の先。



ふわっと髪をなびかせて、颯見くんのもとへ走り寄る鈴葉ちゃん。



颯見くんが鈴葉ちゃんに気付いて、柔らかく笑う。



立ち並んだ二人は、どこから見ても自然で、隙がなくて。



何を話してるのか、ここからは聞こえないけど、頑張って、とか、ありがとう、とかそういうやり取りをしてるんだと思う。



鈴葉ちゃんがハンカチを取り出して、それを颯見くんの頬に当てて。



颯見くんが笑って、鈴葉ちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。



その瞬間に、また。
嫌なものが、胸の奥底で渦巻いた気がする。



「雫、」



倖子ちゃんにポンっと肩を叩かれた。



「大丈夫?」



心配そうに顔を覗き込む倖子ちゃんには、私の心の内なんて簡単に気付かれてしまってるんだろう。



だけど、これ以上心配をかけたくなくて、無理やり大きく頷いた。



「そっか」



そう言って、ぽんぽんっと私の頭を撫でてくれる。



「あ、試合始まるね」



そう言われて視線をコートに移すと、ちょうど選手が整列して始めの礼をしてるところだった。