午後の授業が終わって、放課後。


倖子ちゃんはいつものように、また明日、と言って、部活へ行ってしまった。



鞄に教科書やノートを詰めながら、教室に残っている数人の会話を耳で聞く。



あそこに美味しいカフェがあるとか、誰かが誰かを好きだとか、そんな話が飛び交ってる。



それをただ、蚊帳の外から聞くだけの私は、この時間だけ、友達のいない自分に戻ってしまう。



全ての荷物を鞄に入れ終わって、一番後ろの窓際の席を、ゆっくりと立った。



教室の後ろを歩いて、廊下に出る。廊下の窓の外から、あーえーいーうー、と演劇部の発声練習が聞こえてきた。



階段を下りて、靴箱まで来ると、吹奏楽部の楽器の音が、混ざって聞こえてくる。



上靴からローファーに履き替えて、靴箱を出ると、運動場から、運動部の威勢のいい声が響いてきた。



そんな賑やかな声を聞きながら、私も部活に入ればよかったかなぁ、と少し後悔する。



でも、入ってもやっていけないのかもしれない。落し物を届けるために、クラスの女子に訊くことすらできないんだから。



そんなことを思いながら、校門を抜けた。



真っ白な雪の坂。


足跡や、自転車のタイヤの跡が、たくさん残っていて、それが賑やかに並んでいる。



その跡の隣を歩いたら、まるで誰かと一緒に歩いたみたいに、私の足跡が残っていった。



ずっと先まで繋がっていく、白い世界。



倖子ちゃんは、雪を嫌だと言っていたけれど、すごく綺麗だと思った。






「あ、そこの君。ちょっといいかな」



知らない声が聞こえて、ポンと、肩に重みを感じた。



振り向くと、黒いスーツを着た知らない男の人が立っていて、思わず肩に力が入る。



「女子高生を対象にアンケートを行っていてね。少しだけ時間、いいかな」



やんわりと笑顔を向けられて、入っていた力が少し和らいだ。



少し前までクラスに友達もいなかった私が、アンケートの役に立てるのかはわからない。



でも、それを断る勇気もなくて、黙って頷く。



「ありがとう。じゃあ、ちょっとついてきてくれる? あ、すぐ終わるからね」



男の人はやんわり笑って、先に歩き出した。