ちょうど、教室の入り口に現れた、くしゃっと笑った顔。トクンと小さく、胸の奥で音が鳴る。


「カズ、電子辞書貸して」


「嵐……忘れ物多くない?」


「ごめんごめん」


 笑いながら、颯見くんが教室に入ってくる。

 距離が近づいてくるこの瞬間は、何度経験しても慣れなくて、緊張で心臓がうるさい。


 ――試合とか見に行きたくない?

 今朝、吉澄さんに言われた言葉を思い出して、ドクッと脈が暴れる。


 ガラっと椅子を引く音が鳴って、颯見くんが朝羽くんの隣――つまり私の前の席に座った。


「哀咲、おはよ」


 急に私に言葉を向けられて、緊張が身体を走り抜ける。


「お、お、おはよう」


 どもりながら挨拶した私に、優しく笑い返してくれて。その瞬間に、胸の奥で鼓動とは違う何かが音をたてる。