「あれ、哀咲さん……?」


 さっきまでウットリと瞳を輝かせていた吉澄さんが、心配そうに顔を覗き込んできた。


「ねぇ、もしかして、」


 吉澄さんが一瞬考え込むように視線を斜め上に向けて、もう一度私に向き直った。


「もしかして哀咲さんって、朝羽くんか颯見くんのこと、好き?」


 拍子に飛び出た息。ドクドクと鼓動が押し寄せる。


 どうして。今、気付かれてしまったんだろう。


「朝羽くん? それとも颯見くん?」


 コトリと首を傾げる彼女に全て見透かされそうで、さっと視線を逸らした。

 鼓動の音が脳内で鳴り響ている。


「朝羽くんかな? 確か同じクラスだよね」


 訊かれて、反射的に首を振った。


「そっか、じゃあ颯見くんだね!」


 ハッとして吉澄さんに視線を向けると、吉澄さんは「正解だ!」と笑った。 

 頬がカァっと熱くなって、顔を俯ける。


「颯見くんのことが好きなんだね!」


 そう言って楽しそうにはしゃぐ声に顔が上げられない。


 さっき、吉澄さんに言われたばかりだ。颯見くんには鈴葉ちゃんがいて、私達には手が届かないって。

 それなのに、こんな気持ち知られて――恥ずかしい。


「ねぇ哀咲さんっ」


 吉澄さんの声が浮き立っている。


「サッカー部の試合とか見に行きたくない?」


「へっ」


 唐突な提案に顔を上げると、吉澄さんはふふっと楽しそうに跳ねた。


「自分の学校の生徒を応援しに行くだけ。別に特別なことじゃないよ? 颯見くんが好きで観に行ってるなんて誰も気付かないよ」


 なんだか恥ずかしくて、また頬が熱くなる。


「それぐらい良いと思わない? 好きな人を遠くから応援しに行くだけなんだから」
 

 吉澄さんは、そう言って、ね、と私の腕に飛びついた。


 言われてみればそうかもしれない。ただ、サッカーをしている姿を観に行くだけ。

 厚かましく、ない、よね?


 気が付いたら、私は頷いていた。