消極的に一直線。【完】

 ちょうど始業式が終わったのか、廊下の方からたくさんの足音と話し声が聞こえてくる。

 だけど、この空間だけは、まるで現実から切り離された夢の中のようで、出たくない。


 もう教室に戻らなきゃいけないのに。なんて思っていたら、ガラガラと保健室のドアが開いて、他の人が入ってきた。


「やっぱりまだ保健室いたのかよー」


 入ってきた男子は、春風に吹かれる彼の姿をみつけて親しげに歩み寄って話しかける。


「聞いてくれよー、校長の話がさーいつも以上に長くてよー」


 仲良さげに話し始める二人。

 邪魔をしてはいけないなと思って、ペコリと彼に向かって頭だけ下げた。

 邪魔にならないよう、そっと歩いて、開けられていた戸を抜け保健室を出る。


 保健室があるのは東校舎。廊下には、知らない人達ばかりがまばらに歩いている。


「哀咲!」


 ふと、私の名前が、その廊下いっぱいに響き渡った。

 立ち止まって振り返ると、彼が、保健室の戸に手をかけて、身を乗り出している。


 どうしてだろう。なぜか、少しだけ、緊張する。

 彼は、私と目を合わせると、くしゃっと笑った。


「またな」


 知らない廊下に、心地よい風が吹く。


 なんだか、すごく、いいな。

 頷いて、廊下を一人、歩き出す足が、とても軽やかに感じた。