「あ、ごめんね、驚かせちゃって」

 
 愛嬌のある笑顔が返ってきて、慌てて首を横に振る。


「ここはね、私達科学研究部の部室なんだけど、私達に何か用事かな?」


 ひょこっと首を傾げる彼女。

 ハッとして、ポケットの中の物体を取り出す。


「あ、……の、」


 上手く言葉が出なくて、ポケットから出したそれを差し出した。

 途端に、彼女の瞳が大きく見開いて「それ!」と指を刺す。


「私が失くした……」


 彼女が動揺したように手を伸ばし、物体をそっと受け取った。


「どうして……あなたが持ってるの……?」


 恐る恐る、伺うような視線と合う。


 訊かれてる。答えなきゃ。

 そう思うと呼吸が浅くなって喉の奥が震え始めた。


「じん……」


「え?」


 神社の裏であなたが落としたのを見て拾いました、と、言えばいいだけなのに、手足が震えて声が出せない。


 言わなきゃ。そう思うのに冷や汗が出てきて、鼓動の音だけが喉の奥から出てくる。


「えっと……大丈夫? 体調悪い?」


 恐る恐るだった彼女の瞳が心配の色に変わっていく。

 心配をかけてはいけないと首を振ると、彼女の顔が(いぶか)しげに歪んだ。


「おいウタナ、何してんだー? 早く来いよー」


 ちょうどその時、廊下の奥から声が飛んできた。


「あ、ごめーん、すぐ行く!」


 ボブの彼女はそう返事して、くるりと私にまた愛嬌のある笑顔を見せた。


「とにかく、これありがとうね! それじゃあまた!」


 言い残して、声の方へ走り去っていってしまった。