「あ、いたー!!」


 どこからか、透き通る声が、飛んできた。

 あ、と颯見くんが声を漏らす。


 颯見くんを見上げて、その視線の先をたどると、鈴葉ちゃんが走って、こっちに向かっていた。その後ろに、倖子ちゃんと朝羽くんもいる。


 急に罪悪感がこみ上げてきて、思わず視線を落とした。


「よかった、合流できた!」


 鈴葉ちゃんが、息を整えながら私の前で立ち止まった。


「あ、そのコート。嵐、貸したんだ」


 鈴葉ちゃんの言葉で、ハッとして。鈴葉ちゃんではなく私が颯見くんのコートを着ていることが、すごく悪いことのように感じた。

 罪悪感が拭えなくて、片手をコートの袖から抜こうとすると、ポンと、肩に重みが乗った。


「嵐ってなかなかいいやつでしょ」


 ふわり、と笑う鈴葉ちゃん。


「優しいところあって」


 そう言った鈴葉ちゃんの言葉には何の濁りもなくて、透き通った声が心臓をキュッと摘む。

 そう。優しい人だから、コートを貸してくれただけ。


 もし、鈴葉ちゃんも、颯見くんのことが、好きだったら。今日私が受けた優しさは、鈴葉ちゃんが受け取るべき優しさだったはず。新年も、颯見くんと迎えたかったはず。


「昔から負けず嫌いで憎まれ口ばっかりだけど、優しくて、いざって時は男っぽいところあるの」


 そう言う鈴葉ちゃんの綺麗な声を聞きながら、なんとなく、鈴葉ちゃんも颯見くんのことが好きなんじゃないかって、だんだんそんな気がしてきて、胸が苦しくなった。


「あれ、雫、また甘酒飲んでんの?」


 そんな思考を払うように、倖子ちゃんが、私の肩に乗っている鈴葉ちゃんの手をサッと払って、隣に立った。


 ふと鈴葉ちゃんを見ると、ふわりと柔らかく笑い返される。


「火傷しないようにね?」


 優しい透き通るような声。モヤモヤ思いかけた自分の気持ちが恥ずかしい。


 頷いて、甘酒にふーっと息を吹きかける。


「あ、そうだ」


 倖子ちゃんが、思い出したように、声を出した。


「雫、あけおめ! んで、ことよろ!」


「あけ、おめ? こと、よ、ろ?」


「え、もしかして雫、わかんないの?」


 戸惑いながら頷くと、倖子ちゃんは、大きな声で笑った。


 それから、それが、あけましておめでとう、と、今年もよろしくお願いします、を省略したものだと教えてもらって、それが常識だということも知って。


「あけおめ、ことよろ」


「うん、あけおめ、ことよろ!」


「あけおめ! ことよろ!」


 みんなで何度も言い合った。