そのとき、ゴーンと、遠くの方で鐘の鳴る音が厳かに響いた。

 この神社ではなくて、どこか近くのお寺が、除夜の鐘を鳴らしているんだ、と気づく。


 もう、今年も終わってしまうんだなぁ。


 そばにあった低めの岩に腰を下ろすと、ひんやりと冷たい温度が伝わってきた。


 今年はいろんなことがあった。始まりは、九月の始業式の日で。あの日から、私は、いろんなことが変わっていった。

 体育祭で、倖子ちゃんたちと仲良くなった。
 颯見くんに背中を押されて、初めて自分から思いを伝えた。

 そこから繋がっていった、打ち上げや、文化祭や、テスト前の勉強や、休日のお出掛け。

 いろんな思いが、ぐるぐると混ざり合って、こみ上げてくる。


 ふっと、颯見くんの、くしゃりと笑った顔が浮かんだ。トクン、と心臓が音を鳴らす。


 颯見くんが、好き。

 哀咲って、名前を呼ばれるたびに、勝手に高揚してしまう。

 もっと声を聴きたい、話がしたい、笑顔を見たい、って。
 そんな厚かましいこと、思ってしまう。


 そこまで考えて、ハッと鈴葉ちゃんの顔が頭をよぎった。


 途端に厚かましいことを思っていた自分が恥ずかしくなる。

 
 颯見くんが好きなのは、鈴葉ちゃん。天使のようで純粋で淀みのない綺麗な女の子。
 禍々しいモヤモヤに(まみ)れた醜い私が出しゃばっていいわけがない。


 お互いを思いやって氷の紙コップを奪い合う二人の姿を思い出して、チクチクと胸が痛んだ。

 恥ずかしい。自分がおこがましい。氷をくれた颯見くんに私はただ胸を高鳴らせていただけで、何も見えていなかった。


 鈴葉ちゃんとは全然違う。

 ぎゅっと胸が痛んで、顔を膝に(うず)めた。


「哀咲っ!!」


 どこからか、颯見くんの声が、響いた気がした。

 私が颯見くんのことばかり考えるから、幻聴が聞こえたのかもしれない。

 本当に、どこまで厚かましいんだろう。


「哀咲!」


 そう思っていたのに、今度はもう少し近くから聞こえてきて、カサ、と雑草の擦れる音が鳴る。


 本当に颯見くんなんだろうか。そう思って、ゆっくり顔を上げた。


「哀咲……いた……よかった……」


 声の方へ向くと、ゆっくりと、近づいてくる、颯見くんの影。

 あんなに厚かましいと言い聞かせたのに、心臓は正直に鼓動を鳴らす。


 少し苦しそうに吐かれる、白い息。

 静かなせいで、呼吸の音が鮮明に聞こえて、緊張が流れる。