溢れそうになっていた涙をおさえて、鼻をすすりしゃがみ込むと、カサ、と近くで、長く生えた雑草が擦れる音が聞こえた。


 涙を拭って、ゆっくりと視線を音の方に向けると、十メートルぐらい先に四人の影が見える。薄暗いせいで、顔はよく見えない。


「おいウタナ、こっから見えるか?」


「うん、東に移動してる」


 かすかに聞こえてきたよくわからない会話。なんとなく気になって、よく、目を凝らしてみた。

 
 ふんわりボブの小柄な女子と、貫禄のある大きな男子、それからヒョロリと長い痩せ型の男子。その横にはスラッと背の高い男子が立っている。

 どこかで見たことあるような気がして思考を巡らせる。


「アイツなかなか手強いよなー」


「冬休み中に片付けとかないと、また科学研究部の野外活動申請延長しないといけなくなるのに」


「あの理由付け結構面倒なんだよなぁ」


 聞こえてきた会話で、ハッと記憶が繋がった。

 科学研究部の人たち。たしか、体育祭の打ち上げの帰りに、電柱の陰に座り込んでた人たちだ。


 思い出せそうで思いだせなかったものが解き放たれて、すっと喉が通るようにスッキリする。


「あ、見失った! 人ごみの中に……」


「マジかよウタナ! ちょっと行くぞ」


 誰かを追ってるのか、何をしてるのか、よくわからないけれど、その四人は慌てたようにその場を去っていく。

 
 なんだか気になって見届けていると、ポトッとボブの女子が小さい何かを落としていった。

 だけど、ボブの子は落としたことに気づいた様子がない。
 

 あ、と思わず駆け寄って、落ちたそれを拾い上げた。
 黒い小さな、USBメモリのような、よくわからない物体。

 早く渡さなきゃと視線を向けた時には、四人の姿はもうどこもなく、冷たい風だけが吹き抜けて、髪を揺らした。


 どうしよう。

 手に持った小さな物体に視線を向ける。


 数秒考えを巡らせて、学校が始まったら科学研究部の部室まで届けに行ったらいいかな、と、結論に達して、その黒い物体をポケットに入れた。