紙コップを奪い合う二人の会話を聞きながら、紙コップを持ってる手が冷たいなんて気が付かなかった自分に恥ずかしくなって内臓がカァっと熱くなった。


「あ、あの、」 


 声を出すと、私の発言を聞き逃さないとする二人の動きが止まる。


 ああ、やっぱり。二人は優しい。
 私は自分のことばっかりで、二人は優しくて。

 敵わない。
 私が颯見くんを好きだなんて、どこまで傲慢で厚かましくて身の程知らずなんだろう。


「もう、大丈夫、なので、それ返してくるね」


 颯見くんの手から紙コップをスッと抜き取る。


「あ、もう氷使わないなら中身だけここら辺に捨てたら――」


「氷頂いたお礼もしたいし、ト、トイレも行きたいから……」


 颯見くんの言葉を遮って、視線を逸らす。


「じゃあちょうどいいね、私もトイレ行きたいから一緒に行こ!」


 鈴葉ちゃんの無垢な優しさがまた胸にチクリと刺さった。


 こんなに優しくて純粋な鈴葉ちゃんを颯見くんが好きになるのは当たり前で。誰がどう見ても、二人はお似合いで。


 そんな天使のような鈴葉ちゃんと対比して見えた自分の姿があまりにも醜く惨めに思えた。私は、颯見くんの好きな鈴葉ちゃんとは正反対。


「ご、ごめんね、私先にお礼しに行きたいから……」


 優しい鈴葉ちゃんの言葉に、こんな風にしか返せない自分も、嫌だ。


「お礼なら私も一緒に……」


 そう言ってくれる鈴葉ちゃんの優しさに、またキュッと胸が痛んで、黒い嫌な感情が湧き出てくる。


 優しくて大好きな鈴葉ちゃんに、どうしてこんな気持ちが湧いてくるの。

 私はどこまで醜い人間なの。

  
 ――もう、何も考えたくない。一人になりたい。


「ひ、一人で行きたいところもあって……だから、行くね」


 それだけ言って、鈴葉ちゃんの顔も見ずに、ただ一目散に神社の奥へ走った。