「早めに冷やして」


 柔らかい声に誘われるように、氷を一粒口に含むと、ヒヤッと舌に当たってヒリついていた感覚が戻っていく。


「顔は? 火傷してない?」


 ドクドクと止まない鼓動の音を聞きながら、頷く。


「よかった……」
 

 差し出されたままだった紙コップが下ろされて、目の前にいる颯見くんの気配が動いた。

 視線を上げると、再び颯見くんの優しい瞳と目が合って、脈拍が上がる。耐えきれなくなって思わず視線を下げた。
 

 目に映ったのは、下ろされた紙コップ。氷からは寒々しい白い煙が見えた。

 その紙コップに誰かの手が延びて、スッと奪っていく。


「嵐、ありがとね」


 鈴葉ちゃんの手だった。ニコリと笑う鈴葉ちゃんに、盗るなよ、と颯見くんが再びその紙コップを奪い返す。


「あちょっと、私が持っとくってば。冷たいでしょ」


「冷たいから俺が持つんだよ」


「嵐は寒がりでしょ、私は平気だから」


「鈴葉こそ冷え性だろ」