「哀咲!」


 胸を揺さぶる声が聞こえて振り向くと、どこかへ行ってたのか、走ってくる颯見くんの姿。


「氷、貰ってきた」


 そう言って目の前まで来て、膝に左手をついて荒ぶった息を整えている。

 右手には、氷が山盛りに入った紙コップ。


「氷なんてどこから貰ってきたんだよ」
 

「あそこにいる巫女に貰った」


 朝羽くんの質問に答えて、息を整えながらその巫女がいるであろう方向に視線を向けた後、ゆっくりとその目が私に向いた。

 ドクン、と心臓が揺れる。


「火傷、した?」


 目の前に映る、整った顔。優しい目。優しい声。

 心臓が大きく脈打って、一気に顔に熱がこもった気がした。


「してるなら、氷口に含んで冷やした方がいいよ」


 言われて、氷の入った紙コップを差し出される。


「あり、がとう」


 紙コップを受け取ろうとすると、彼はその手を差し出したまま離さない。


「持ってるから。氷、口に含んで」


 クシャリと彼が笑う。

 心の中を春風が吹き抜けて、胸が疼く。


 好き。颯見くんが、好き。

 “好き”をこんなふうに言葉で意識してしまったら、余計に胸の疼きが高まってしまう。