甘酒をもらうための列は、そこそこ人が並んでいたけれど、進むのが速くて、案外すぐにもらうことができた。


 甘酒の入った紙コップからじんわりと熱が伝わって、手が温かい。

 白くたつ湯気からは、少しクセのある匂いが鼻を通った。


「甘酒飲むと、大晦日って感じがするよね!」


 鈴葉ちゃんが、紙コップに口を付けて、ふーっと白い息を吐く。


「鈴葉って毎年それ言ってるよな」


 朝羽くんがそう言いながらハハッと軽く笑う。


「本当にそう思うんだからいいでしょ」


「別に良いけどさ」


 鈴葉ちゃんと朝羽くんの楽しそうな笑い声が響く。


 ふと颯見くんに目をやると、颯見くんはその会話に入ろうとせずに紙コップを両手で包んで、ふーっと息を吐き出していた。

 なんだかその横顔が物憂げに見えて、ズキッと胸が痛む。


 やっぱり、鈴葉ちゃんと朝羽くんが楽しく話しているのは、颯見くんにとって切ないのかな。


 チクチクと胸を刺す痛みから逃げるように視線を外し、口元に紙コップを近付けて、一気に甘酒を流し込んだ。


「熱っ……!」


 瞬間的に、声が漏れて口から紙コップを遠ざけた。

 ビシャっと残っていた甘酒がその勢いで飛び散る。


「大丈夫!?」
「雫!?」


 鈴葉ちゃんと倖子ちゃんが慌てて駆け寄ってきた。


「あ、うん、大丈夫、ごめんね」


 答えながらポケットに入れていたハンカチを取り出し、コートに飛び散った甘酒を拭く。


「火傷してない?」
「甘酒熱いんだから気をつけないと」
 

 心配そうに言いながら二人もハンカチを取り出してコートや顔に飛び散った甘酒を優しく拭ってくれた。


「あ、ありがとう、ごめんね、あ、ハンカチ、汚れちゃって、」


「そんなのいいから。てか口の中は? 火傷してない?」


 倖子ちゃんがハンカチを鞄にしまいながら、顔を覗かせるようにして、私を見た。


「あ、うん、大丈夫、だよ」


 心配かけたくなくてそう答えたけれど、本当は唇と舌が麻痺したようにぴりぴり痛む。

 火傷してる。だけど、自分のせいだし、心配かけて皆んなの楽しい時間を台無しにしたくない。