「ちょっとー、嵐! どうしたのー?」


 不意にまた別の方向から、聞き慣れた声が聞こえてきて、ハッと目を逸らした。


 小石を踏む軽やかな足音が、近づいてくる。


「あれ? 雫ちゃん!?」


 透き通った声が、嬉しそうに私の名前を呼んだ。

 顔を向けると、予想通り、ふわりと笑いながら駆けてくる、鈴葉ちゃんの姿。

 私の目の前まで来ると、小さく跳ねて笑った。

 
「雫ちゃんも来てたんだね!」


 せっかく笑いかけてくれたのに、私はぎこちなく頷くことしかできなかった。


 颯見くんは鈴葉ちゃんと一緒に来てたんだなぁ、なんて。そんなの、幼馴染だから当たり前のことなのに、嫌なものが、また奥底で渦巻いてる。


 これはいったい何なんだろう。わからないけれど、すごく、嫌なもの。

 出てこないで、やめて、って、心が訴えてる。


 気が付いたら、口から言葉が出ていた。


「あ、私は、倖子ちゃんと、一緒に来たんだよ」


 言ってから、しまった、と思った。

 そんな言い方、鈴葉ちゃんに嫌な風にとられてしまうかもしれない。だって、倖子ちゃんと鈴葉ちゃんはあまりいい関係ではなかったはずで。
 

 どうしよう。鈴葉ちゃん、嫌な気分になってないかな。そんな罪悪感から、そっと視線を俯けた。


 じゃり、と、倖子ちゃんの気配が近づく。


「そうそう。雫はあたしと来たんだよ」


 まるで私を守るみたいに、私の斜め前に倖子ちゃんが出てきた。


「だから、颯見や朝羽ならいいんだけど、あんたがあたしの目の前に現れないでくれる?」


 チクチクと、棘が刺さるような、そんな言葉が鈴葉ちゃんに吐かれていく。


 フラッシュバックのように、仲良くなる前のムカデ競争の練習を思い出した。

 勝手に身体が震え出す。息ができなくなったみたいに、苦しい。鼓動が嫌なリズムを刻んで、胸が、痛い。


「あ、の、っ……」


 何かを言わないといけない。

 そう思って、口を開けて息を吐き出すけど、喉に何かが詰まったみたいに、声が出ない。


「あとさ、あんた、幼馴染みか何か知んないけど、颯見にベタベタくっつくのやめたら?」


 グっと、心臓が詰まる。

 その言葉は、私のせいで出されたもので。

 なのに、倖子ちゃんの言葉が、鋭い槍のように痛くて、鼻の奥がツンと苦しくなった。