消極的に一直線。【完】

 チリンチリン、と、夢の中から連れ戻すように、鈴の音が耳に届いた。

 あ、と颯見くんが椅子から立ち上がって、「いらっしゃいませー」とドアの方に笑顔を向けた。

 
 急に視野が広がったみたいに、お店の中の景色が、目に映る。

 さっきまで颯見くんと二人の狭い部屋にいたような、不思議な錯覚。


「あ、なんだ。客かと思った」


 颯見くんが呟くように言って、またその場に座った。


「なんだって何よ。私も手伝いに来たのに」


 聞こえてきた透き通る声。目を向けると見慣れた人影。


「ん? あれ? 雫ちゃんがいる!!」


 私に気づいた声の主が、ふわっと笑って、私の方に駆け寄ってきた。

 制服姿じゃない鈴葉ちゃんは、いつもと雰囲気が違っていて、いつも以上にかわいい。


「おさげ髪じゃないんだ!」


 ふわりと、春の花のような笑顔を向けて、颯見くんの隣に鈴葉ちゃんが座る。


「髪おろしてても、すごくかわいい!」


 そう言われて、お世辞だってわかるのに、頬が少し熱くなる。

 鈴葉ちゃんの方が、何倍も、何百倍もかわいいのに。


「っていうかどうしてここに? もしかして会いに来てくれたの?」


 鈴葉ちゃんは、くりっとした二重の目を期待で大きくさせて、ふわりと笑った。


「哀咲は寺泉と一緒にたまたまここに来たんだって。な?」


 私の代わりに颯見くんが答えてくれて、目を向けられて頷く。


「そうだったんだ! だけど寺泉さんは?」


「お手洗い」


「あーそっか。ならあとで声かけようかな」


「……本気か? っていうか来て早々サボるなよ。ちゃんと仕事しろ」


「それを言うなら嵐だってサボってるじゃない。私はもう少し雫ちゃんと話したいのー」