第1章 始まりの予兆




 人と接するのは難しい。緊張して、上手く話せない。


 例えば、「おはよう」って話しかけたいとする。

 そうすると、言うタイミングは今で大丈夫かな、とか、馴れ馴れしいなんて思われないかな、とか、いろんなことが気になって、「おはよう」を言うまでにすごく勇気がいる。

 なのに、勇気を振り絞って言った「おはよう」は、案外声が小さすぎて相手に聞こえなかったりとか。


 そんなことが、私は日常茶飯事。

 二学期こそは、クラスに友達、できるといいなぁ。

 校門前の上り坂を一歩一歩のぼりながら、そんなことを思った。


 今日から、高校一年の二学期が始まる。暦は秋だけど、日差しはまだまだ真夏。

 目元ギリギリに揃った前髪が額にぴったりとくっつく。

 一瞬だけ、ぶわっと風が通り過ぎて、腰まであるおさげの三つ編みがなびいた。


 今の、いい風。

 私の前を歩く、同じ制服を着た女の子達が、ひゃー、なんて声をあげた。


 あんな風に友達同士で笑い合って登校したり、友達同士で騒いだり。

 いつか私も、そんな風になりたい。なれるかな。


 坂の上に小さく校門が見え始める。

 じんわりと滲む額の汗が目に染みたから、立ち止まって、ハンカチを出そうと鞄をまさぐった。