2005年10月

朝一番電車の汽笛を聞きながら、築地市場で仕入れや営業を行い、順調に会社が運営を出来ていると思った矢先、再び倒産の危機に直面する。
ある日、木内とのミーティングで、
「常務、非常にマズイ状況だ、再び偽造した決算書を使って融資を受けようと思うがどうするか?」
「できたら、やりたくないですね」
「何!?潰れんだぞ!お前がだらし無くて潰すなんて俺は許さん!」
「お言葉ですが、私は黒字を出しています、海幸やは赤字です、会社を潰すのではなく海幸やをやめましょう」
「海幸やには口出すな、あれはいずれ認知され莫大な利益を出すんだ、お前に何がわかるんだ、俺の経験からいくと…」
木内の独演は延々続いていた。

そして、龍二は押し黙ったまま聞きながら考えていた。
まただ、また自分の責任を棚に上げ俺の責任か。
しかし、従業員を守るには偽造でいくしかないか!?
本当にそれしかないのか?
自問自答したが、偽造か倒産かの選択肢しかなく、最終的に合意した。

そして、融資を受けることに決定すると雪村が申込をし銀行から提出する書類と要項が送られてきた。
目を通した木内は頭を抱えた。
決算報告書に加え、今期の納税証明書、そして取引銀行全ての通帳が必要となった。
前回までの融資からは八ヶ月が過ぎていた。
前回から今日までの間に決算期があり、前回は前期の納税証明書と店をオープンする前と言うこともあり多額が動いてなかったため通帳も正規のもので済んだ。
しかし、今期は赤字であり納税証明書は赤字によるマイナス表示のため決算書と数字が合わなくなる。
更にメインバンクの通帳についても数字的に決算書と照らし合わせると不透明になるため、それをどうするか考えた。

そして木内が口を開いた。
「常務、何か良い案はないか?」
「他の銀行も提出書類は同じですかね?」
「同じだな」
「社長、常務…」
雪村が口を挟んだ。
「通帳ですけど、偽造するには違う通帳が必要になります、本通帳は正規の出入が記載されているので使えません」
「そうか、どうしたもんかの」
木内は再び頭を抱えた。
龍二もまた悩んでいた。

するとまたも雪村が、
「通帳は従業員に給料を銀行振込にするから作るように言えば手に入ります」
「それは妙案だな」
木内が言った。
しかし、龍二は従業員を巻き込む恐れが1%でもあったら避けたかった。
そして龍二は、
「私達のだけでどうにかしましょう」
「常務それはある意味無理です」
雪村が言った。
「何故だ?」
「いくつか作らねばならないのと、失敗をした時の為にも必要です」
すかさず木内が口を挟んだ。
「雪村その通りだ、常務も少し考えろ、社員達には分かるわけなんだ、俺が食わしてやってるんだからそれくらいやるべきなんだ」

龍二は思った。
また始まったか…
俺が食わしてるだと?
お前が苦しめてるんだろうが、と。
しかし黙っていた。

「後な常務、納税証明書はどうする?」
「原本ありますか?」
そう言うと雪村が原本をもってきた。

龍二は原本を見て雪村に言った。
「雪村、それとセロテープをくれ、それにカッターと針も」
「えっ!?何をするんですか」
「偽造だよ(笑)」

木内が興味津々に見ながら、
「どうだ?できそうか?」
「…」
「どうなんだ?どんな感じだ?」
「すみません、気が散るんで黙ってて下さい」
「なにぃ、何だその言い方は!」
龍二は無視し作業を続けた。

「社長、成功ですよ」
「おお、これは凄い!後はここに印字するだけだな、パソコンでやるのか?」
「そうですね、ピンポイントでやれば出来ますよ」
雪村もそれを聞くと、
「常務、通帳もできますか?」
「理論的には可能だな」

木内と雪村は興奮していた。
龍二はそれを冷めた目で見つめていると、木内が興奮気味に、
「これで乗り越えられるな、雪村は絶対数字間違えるなよ」
「分かりました!」
「常務頼んだぞ、二日くらいで出来るか?」
「それはちょっと難しいですね、ぶっちゃけ正常業務も行ってるわけですから夜のみしか時間はありません、泊まり込みでやりますが一週間は欲しいです」
「それじゃ銀行との打ち合わせに間に合わん!三日でやれ!」
「…分かりました」
「雪村は明日社員達に通帳作るように言え」
「今日中に申し伝えます」
「そうか!常務もダラダラやることしか考えないで雪村みたいにきびきび動け」

そして、龍二はパソコンでExcelを用い通帳と納税証明書を作成した。
納税証明書はワンポイントだったのですぐに出来た。

通帳は糸で結ばれており、裁断し偽造したものを縫合した。
通帳を偽造するにあたり雪村から五冊の通帳が手渡された。
最初は先ずは自分の通帳でやり始めた。
手先が器用だから成せる技であったが二度とやりたくないと感じていた。

銀行三行の通帳が必要だったが龍二と雪村の通帳、それに龍二直属部下の長山の通帳で終えた。
他の従業員を始めとした数名の通帳は裁断されたが使用はしなかった。
その後、龍二は残った通帳を縫合し元に戻しておいた。

無事に融資をうけたことでどうにか乗り切ったが、「そう長くはないかな」龍二は心の底で感じていた。