そして、東の空が明るくなり病院から程近い新京成電鉄の北習志野駅を出発する初電列車の汽笛が聞こえる頃、龍二は朦朧としながらも意識を回復した。
達也を見つめながら龍二は人工呼吸器を少しずらし、
「ありがとう、お前が助けてくれたんだ」
そう、か細い声で言った。

達也は直ぐさま看護士を呼び意識が回復したことを伝えると再び面会謝絶の状態となりそれは午前中一杯続いたが回復の道を歩み始めた。
幸い脳に障害が残ることもなく順調に快方へと向かった。
医師も何の後遺症も認められないことに嬉しい驚きと龍二の精神力と体力に驚かされた。
その数日後、無事退院したが通院加療は避けられず、全治はなく、一生薬は止められないと伝えられた。

そして龍二は、意識不明中の暗闇での出来事を達也に話し感謝を述べたが達也は一笑に伏し、
「寛が初期対応を間違えず、龍二自身が生きようとした意識と精神力の賜物だ」
と讃えた。

病に倒れた龍二は仕事をセーブすることとなり、今度は己の体調でまたしても挫折を味わう結果となった。
しかし、龍二は意識が戻ったときの汽笛を鮮明に覚えており、
「これも神から与えられた試練で乗り越えられるから与えられたのだ」
と言い聞かせていた。

だが、時代はバブル経済崩壊から風雲級をつげ、日本の国全体が騙し合いの人間を構成してしまい不毛な街となり金銭絡みの犯罪で殺人や詐欺が蔓延していた。
龍二が子供のころ描いた21世紀の未来夢物語はもろくも崩れ去り残ったものは瓦礫のような時代背景だった。