ある日、ふと浜島の元を尋ねた。
近況を報告した時、濱島が言った。
「龍二、お前どこまで闘うんだ?」
「死ぬまでだな」
「つまり最後までホールドアップはしない、と言うことか」
「例えバンザイしてもそれは見せ掛けで必ず撃ち打ち抜くよ」
「まったく、二倍も三倍も強くなったな」
「浜ちゃんの教育の賜物だよ、ハハハハ〜」
「お前ならいつか成功するよ」
「ならいいが」
二人は顔を見合わせ笑った。

そして浜島は、
「龍二、何か大切なものや大事なことを忘れたりしてないか?」
「大切なもの…大事なこと…」
「いつかお前が言ってた夢のことが気になってな、忙しいあまり初心を忘れてるんじゃないかと感じてるんだ」
「初心…浜ちゃん、原点を忘れてたかもな…長いこと汽笛を聞いてないからかも知れない」
「汽笛?、旅か!?」
「そう、純粋な部分て言うのかな、あの日の事を話したあの時のことを…浜ちゃん、サンキュー、何か見えてきた」
「そうか!見えてきたか!俺とのアルコールもたまには良いだろ、ハハハハ」
「たまにならね、ハハハハ」
龍二は腹の底から笑った。
浜島も腹の底から笑っていた

翌日、龍二は原点回帰のため夜の上野駅にいた。
あれから時は15年を刻んでいたが、あの日あの時の出来事は鮮明に覚えていた。

寝台特急あけぼのが走り去る後姿を眺めながら龍二は気持ちを切替、娘の名前を呟いた。
「亜希、パパ必ず乗り越えるよ、寂しい思いさせてごめんね」
龍二は目頭が熱くなりまぶたは涙で溢れていた。

そして、初志貫徹を誓い上野駅を後にした列車が夜の暗闇へ吸い込まれ見えなくなるまで見つめていた。

暗闇に消えた列車が発した汽笛の音は、あたかも暗闇に取り残された龍二に一筋の光を射しているようだった。
そして、いつの間にか涙は消え闘志を燃やす闘いの眼に戻り、それは間違いなく新たなる旅立を意味するものだった。