【菜花side】
『今日のゲストは今大注目の高校生、高梨湊くんでーす!』
今朝、朝食のトーストをかじっていたら、いつもみる朝の報道番組の小さなコーナーに湊くんがゲストとして出演していた。
ぺこぺこお辞儀しながら、「すっごく緊張してます」なんて笑う湊くんを見て、不思議な気持ちになった。
───私、話したんだよな……湊くんと。
まだ信じられない。こうして画面の向こうに居るのを見るとますます。
いつも通り通学中にイヤホンで聴く歌声も、昨日生で聴いたのかと思うと信じられない気持ちになった。
ぼうっとそんなことを考えながら電車に乗り込む。この時間帯は通勤通学ラッシュで、私の最寄り駅から乗って座れることはまずない。
だからいつも通り吊革に捕まろうとしていると、くい、とブレザーの袖を軽く引かれた。
「せんぱい」
振り返ると、今朝テレビで見た人懐っこい笑顔があった。袖を引っぱっていたのは湊くんだった。
「湊くん?!」
「先輩座って」
そう言って自分の座っていた席から立ち上がる湊くん。当然私は申し訳なくて渋ったけれど、発車するから、と急かされて思わず座ってしまった。
「ごめんねありがとう」
「いーえ。いつもは違う車両に乗るから知らなかった。おんなじ電車だったんですね」
座る私に向き合う形で吊革に掴まりながら、湊くんはラッキー、と本当に嬉しそうに笑ってくれた。
さっきまでテレビで見ていた顔が目の前にあって、今もイヤホンの奥で響いてる声が、私に向けて言葉を紡いでいて。なんだかほんとうに現実なのかと疑ってしまう。
「ミナ、座れ」
不意にそう声がして隣を見やると、うちの高校の制服を着た少年が居て、席を立って湊くんに譲ろうとしていた。
「あ、昨日の…」
湊くんにびっくりして気付かなかったが、隣には昨日のあのちょっぴり意地悪な少年が居た。よく見れば、そのさらに隣には昨日助け舟を出してくれた女の子が。目が合うと彼女は可愛らしい笑顔で会釈をしてくれた。
「いやいや何で男に席譲られなきゃいけねーの。何ファーストだよ」
「湊ファーストだよ」
「なにそれ気持ち悪い」
「いいから。座ってた方が目立たねーんだよ、俺が前に立って盾になるから」
そう言われると、湊くんは渋々と言った感じで私の隣に座った。意地悪くんは湊くんには意地悪じゃないらしい。むしろすごく優しい。
「過保護でしょう。だから彼女出来ないんだと思うんですよね、コイツ」
呆れたようにわらいながら、女の子が言う。
「そうだ私、佐原花瑠(ハル)って言います」
「あ、私は…」
「菜花先輩でしょ?高梨から散々聞いてますから」
そう得意げに笑う花瑠ちゃん。昨日も思ったけど、この子めちゃくちゃ可愛い。花瑠ちゃんは気を利かせて、ムスッとした態度の彼の代わりに意地悪君の名前も教えてくれた。飯田龍というらしい。
「三人は幼なじみとか?」
「んー…飯田と高梨はそう。私は中学からの友達です」
「いつも三人で登校してるの?」
「はい、家も近いし。高梨が予想以上に有名人になっちゃったからボディーガード兼カムフラージュに」
なるほど。確かに大人数でいた方が話しかけにくいし、紛れやすい。
「いつもは先頭の方のあんまり混まない車両に乗るんですけど、飯田が寝坊したせいで階段下の車両に駆け込み乗車したから」
うっせえ、と睨みをきかせる飯田くんを、湊くんがまあまあと宥める。なんだか微笑ましい。
こうしていると、湊くんもただの男子中学生だ。少しだけ、気が楽になった。
『今日のゲストは今大注目の高校生、高梨湊くんでーす!』
今朝、朝食のトーストをかじっていたら、いつもみる朝の報道番組の小さなコーナーに湊くんがゲストとして出演していた。
ぺこぺこお辞儀しながら、「すっごく緊張してます」なんて笑う湊くんを見て、不思議な気持ちになった。
───私、話したんだよな……湊くんと。
まだ信じられない。こうして画面の向こうに居るのを見るとますます。
いつも通り通学中にイヤホンで聴く歌声も、昨日生で聴いたのかと思うと信じられない気持ちになった。
ぼうっとそんなことを考えながら電車に乗り込む。この時間帯は通勤通学ラッシュで、私の最寄り駅から乗って座れることはまずない。
だからいつも通り吊革に捕まろうとしていると、くい、とブレザーの袖を軽く引かれた。
「せんぱい」
振り返ると、今朝テレビで見た人懐っこい笑顔があった。袖を引っぱっていたのは湊くんだった。
「湊くん?!」
「先輩座って」
そう言って自分の座っていた席から立ち上がる湊くん。当然私は申し訳なくて渋ったけれど、発車するから、と急かされて思わず座ってしまった。
「ごめんねありがとう」
「いーえ。いつもは違う車両に乗るから知らなかった。おんなじ電車だったんですね」
座る私に向き合う形で吊革に掴まりながら、湊くんはラッキー、と本当に嬉しそうに笑ってくれた。
さっきまでテレビで見ていた顔が目の前にあって、今もイヤホンの奥で響いてる声が、私に向けて言葉を紡いでいて。なんだかほんとうに現実なのかと疑ってしまう。
「ミナ、座れ」
不意にそう声がして隣を見やると、うちの高校の制服を着た少年が居て、席を立って湊くんに譲ろうとしていた。
「あ、昨日の…」
湊くんにびっくりして気付かなかったが、隣には昨日のあのちょっぴり意地悪な少年が居た。よく見れば、そのさらに隣には昨日助け舟を出してくれた女の子が。目が合うと彼女は可愛らしい笑顔で会釈をしてくれた。
「いやいや何で男に席譲られなきゃいけねーの。何ファーストだよ」
「湊ファーストだよ」
「なにそれ気持ち悪い」
「いいから。座ってた方が目立たねーんだよ、俺が前に立って盾になるから」
そう言われると、湊くんは渋々と言った感じで私の隣に座った。意地悪くんは湊くんには意地悪じゃないらしい。むしろすごく優しい。
「過保護でしょう。だから彼女出来ないんだと思うんですよね、コイツ」
呆れたようにわらいながら、女の子が言う。
「そうだ私、佐原花瑠(ハル)って言います」
「あ、私は…」
「菜花先輩でしょ?高梨から散々聞いてますから」
そう得意げに笑う花瑠ちゃん。昨日も思ったけど、この子めちゃくちゃ可愛い。花瑠ちゃんは気を利かせて、ムスッとした態度の彼の代わりに意地悪君の名前も教えてくれた。飯田龍というらしい。
「三人は幼なじみとか?」
「んー…飯田と高梨はそう。私は中学からの友達です」
「いつも三人で登校してるの?」
「はい、家も近いし。高梨が予想以上に有名人になっちゃったからボディーガード兼カムフラージュに」
なるほど。確かに大人数でいた方が話しかけにくいし、紛れやすい。
「いつもは先頭の方のあんまり混まない車両に乗るんですけど、飯田が寝坊したせいで階段下の車両に駆け込み乗車したから」
うっせえ、と睨みをきかせる飯田くんを、湊くんがまあまあと宥める。なんだか微笑ましい。
こうしていると、湊くんもただの男子中学生だ。少しだけ、気が楽になった。



