────ああ、そっか…。
私は、何を難しく考えて、戸惑っていたのだろう。
湊くんが私に話し掛けたのは、大好きな菜の花と私を重ね合わせていただけで。
分かってはいたつもりだけど、”一目惚れ”なんて全くの勘違いだったんだから。自惚れもいいところだ。
内心ちょっとがっかりしたけれど、それと同じくらい、なんだか胸がほっこりとした。
────うん、今なら変に緊張しないで、素直になれそう。
「…あのね、湊くん」
意を決してそう呼びかけながら、隣に座る湊くんの方へ向き直る。そんな私に戸惑いながらも、湊くんは「はい?」と小さく首を傾げた。そんな仕草がなんだか可愛らしくて、自然と言葉が溢れた。
「私ね……嬉しかったんだ」
「え?」
「湊くんが私に話し掛けてくれて、すごく嬉しかったんだ」
「……嘘だ。だって先輩あの時 ちょっと引いてたじゃないですか」
「引いてないよ!緊張しちゃっただけ。だって私…湊くんの大ファンなんだもん…!」
ええ、と湊くんは大袈裟なくらいに驚いた。
「嘘だろ?」
じとりと目を細め、疑いの視線を送ってくる湊くんに、私は慌てて講義する。
「嘘じゃないよ!!CDはもちろん買ったし、出演するテレビ番組は必ず録画してるし……ほら、なんならこれ見てよ!!」
そう言って私がリュックから取り出したのは、二冊のノート。
ページをめくれば、湊くんばかりをあつめた雑誌の切り抜きがびっしり貼られている。
顔が写っているものから対談の文章やプロフィール、さらにはCDの宣伝メッセージなど、湊くんに関するありとあらゆる切り抜きを集めたノートだ。
「………………うわぁ…………」
そのノートをパラパラと一瞥した湊くんは、思わずといった感じでそう零した。その表情は少しばかり引きつっている。
────やば……、大ファンだってこと証明したくて勢いで見せちゃったけど、こんなんみたら普通ドン引きだよね……!?
「─………あのー……引いた?」
呆然とノートを眺めたまますっかり黙り込んでしまった湊くんに、恐る恐るそう尋ねる。
「…………まぁ、少し」
「────デスヨネ…」
「うん。でもその倍くらい嬉しいです」
「えっ?」
「だって、こんなに好いてくれてるんだし。自分だって忘れてるようなこんな些細な記事もこんなに綺麗に切り取って集めてくれて…。なんか、すごく照れますけど、すごく嬉しいです。」
そう言って笑ってくれた湊くんの笑顔は、すごく優しくて、綺麗で。
写真に撮ってコレクションに加えられないのが惜しいくらいだった。



