「──その人は……湊くんの恋人なの…?」
恐る恐るそう尋ねると、湊くんはまた静かに微笑んだ。
「…花、とだけ言っておきます」
「……………花?」
「はい。この曲のタイトル『Dear flower』の『flower』は、菜の花なんです」
「…えっ………菜の花?」
思わず敏感に反応してしまったのは、自分の名前のせいだった。
『菜花』という名前は『菜の花』から由来しているのだから………。
思わず黙り込んだ私を見て、湊くんは私がこういった反応を示すと最初から分かっていたとでも言うように、満足そうに頷く。
「はい。だから余計に菜花先輩には、運命を感じちゃったんです」
入学式で私を見かけて興味を持ち、その後に名前を知り、ますます話したくなったのだと湊くんは話した。
『菜花先輩………!』
今朝、そう名前を呼びながら駆けてくる湊くんの、心底うれしそうな顔を思い出し、思わずクスリと笑みが零れる。
「──あははっ……ほんとに大好きなんだね、菜の花」
「ちょ……何笑ってんすか。………でもまぁそうですね…。……今でも変わらず大好きなんです」
そう言って湊くんも、本当に愛しそうに目を細めて笑った。
テレビや雑誌ではあまり見ないそのあどけない無垢な笑顔に、なんだか強ばっていた肩が軽くなるようだった。



