花歌う、君の空。


屋上に上がったのは初めてだった。

うちの学校は特に屋上を閉鎖したりとかはしていないけれど、別に景色が綺麗な訳でもないし、ぽつんと古びたベンチが置かれているだけで、綺麗に整備されているわけじゃない。

だから昼休みも放課後も、ほとんど人は寄り付かなかった。



「湊くんはいつも……ここで歌ってるの?」


人が寄り付かないだけに気が付かなかっただけで、いつも歌っていたんじゃないかな、となんとなく思った。


「たまに」


短く返され、湊くんは私の隣にそっと腰をおろした。


「どうして、屋上なの?」



「…空に近いから、かな」



そう答えて、湊くんはまた静かに微笑んだ。


「空……どうして?」


「──…例えばさ。地球の裏側に、誰か大切な人が居て。でもすごく遠くにいるから、今すぐに顔を合わせて会話することもできない」


夕焼けに染まる赤い空をまっすぐに見詰め、目を細めた。


「でもさ、こうやって見上げた空は、きっとどこに居ても同じ空だろ?時間や色が違っても、いつも必ず繋がってる。どんなに遠くたって、きっと……」


「……………地球の裏側に、大切な人でも居るの?」



「……いや」



私の問いかけに小さくかぶりを振って、また大きな空を仰ぐ。



「わかんない……。すごく遠くにいるような気もするのに、今でも傍にあるから」



”ある”…………?

湊くんの言葉の意味がよく分からなくて、首を傾げたけれど、湊くんはそれ以上は何も言わなかった。