花歌う、君の空。




飛び出した勢いのまま、私は普段なら赴くことのない 東棟3階へと足を踏み入れた。

特進クラスっとことは、1組のはず。

1年1組、と書かれたプレートを確認すると、そっと教室を覗き込んだ。

私のクラスもそうだったように、帰路につく生徒で騒がしかった。もしかしたら、もう帰ってしまったかもしれない。

「あ、あの!」

勇気を出して、近くにいた男子生徒に声を掛けた。誰でもいい、と思って適当に声を掛けた彼は、偶然にも見覚えのある男の子だった。


「君……、今朝…湊くんと一緒にいた……」


湊くんに、"龍"と呼ばれていた男の子だ。


「ああ、あんた今朝の」


仮にも先輩に向かって"あんた"呼ばわりかい、と突っ込みを入れたくなったのを抑え、本題を切り出した。


「それであの、湊くん まだ居る?もう帰っちゃったかなぁ?」

「まだ居たとしたら、何」


彼は真っ黒な瞳に私を映し、心底嫌そうな顔をした。理由は分からないけど、随分嫌われているみたいだった。


「湊くんに話があって……」


「自分で探せば」



──うわぁ、かんじわる………。
私この子に何かしたっけ…。


もう彼に頼るのはやめようと諦めて踵を返そうとした、その時だった。


「ちょっと飯田、子供みたいな意地悪しないの!」


そう呆れた口調で会話に割って入ってきたのは、小柄で高めのツインテールがよく目立つ、可愛らしい女子生徒だった。


「ごめんなさい先輩、高梨なら屋上ですから!」

「あ~佐原てめぇ!」

「もううるさいなぁ!菜花先輩ならいいの!もう本当に子供!」

「……………分かったよ」


佐原と呼ばれたその女の子に強く言われると、彼は返事をしながらもすごく不満そうに目を細める。観念して小さな声でブツブツ言い始めた彼に、女の子は鋭い睨みを利かせた。


「えっと……なんかごめんね!教えてくれてありがとう!」


この場から早く立ち去りたいという気持ちもあり、そそくさと小走りで屋上に向かった。

一歩一歩階段を上る度に、緊張が胸を高鳴らせた。