風と今を抱きしめて……

　その日の午後、一郎と谷口が病院に現れ、真矢に見つからないよう今後の話し合いをした。

　とにかく離婚させた方がいいと言う事になった。

　真矢が先の事が不安になるのではと考え、一郎が提案したのは、ユウに自分の旅行会社の社員になり、真矢に社員の空があるから、出産後の就職出来ると伝えろと、作り話にも無理のある提案だった。


　しかし、谷口は大絶賛だ。


　次にユウに与えられた任務は、真矢の離婚の相談相手になれと言う者だった。


　男の自分に真矢が相談すると思えない事を伝えると、一郎は『実は女だ』とでも言っておけと言った。

　ユウは頭を抱えた。


　真矢は少し落ち着いてきたようだが元気がない。

　ユウは思い切って真矢と話をする事にした。


「旦那の事、どう思っているの？　余計な事だとは思うけど。彼はあなたの事を愛してないよ。別れた方がいいんじゃない？」


「多分、病気なんでしょうね……　気に入らない事があると、感情をコントロール出来なくなるみたで……　別れた方がいいと思うんですけど、怒られると思うと怖くて……」


「子供の為にも、別れるのも母としての勇気じゃないかな？　僕の知り合いに弁護士が居るから聞いてみるよ」


「でも、迷惑じゃ……」

　真矢が毎日顔を出すユウに、不信感を抱いている事を感じていた。


　真矢の不安そうな姿を見て、とっさにユウは言ってしまった。


「実はね、私ゲイなの……　なんかあなたの事ほっとけなくて……　赤ちゃん生むなんて女として最高の幸せでしょ。私には一生出来ない事よ。お願い私に出産を一緒に経験させて……」


　ユウは自分の言葉と演技に驚いた。

　それしか方法は無かったし、今ユウに出来る事は前の前の真矢と、お腹の子を助ける事だけだった。


　ユウが生きる事を許される、唯一の場所だったのだ。