ユウはイタリアに戻ったが、仕事が手に着かずミスも続き、仕事を辞め日本に戻った。


 日本に戻っても、ユウの罪の意識が楽になる事は無く、仕事もろくに出来ず飲んではパチンコに行く、どうにもならない生活を送っていた。

 そんな生活が一年ほど続いていた。


 日雇いで稼いだ金を持って、いつものパチンコ店へ入ろうとした時、反対側の歩道から呼びとめられた。

「ユウ君じゃない?」


 その声は、千秋の母つまり一郎の妻の姿だった。


 ユウは、咄嗟にその場から逃げるように、パチンコ店に入らず走った。


 「ねえ待って」

 と後ろから何度も声がしたが、立ち止まらなかった。



 一郎の妻に見られてから二日後の事だった。



 ユウはいつものパチンコ店で時間をつぶしていた。

 七が三つ並び赤いランプがきらびやかに光るが、ユウは別に嬉しくともなんともなく、無表情に打ち続けていた。

 突然その手を勢い良く掴まれた。


 大柄な男がユウの手を掴み、店の外へと引きずるように連れ出した。


 人相の悪い大柄な男に、ユウはヤバイ奴に絡まれたと思った。


 その男がこの世で一番ヤバく無い男だと知る事になるのだったが、今はただ遣られると奥歯を噛みしめるだけだった…… 


 男に引きずられ、建物の影へと押しやられた。


 そこに立っていた男にユウは、思いっきり殴られた。


 唇を押さえ見上げた先には、長谷川一郎が立っていた。

 一郎の目には涙が浮かんでいる。



 ユウは、頬の痛みが今まで求めていた痛みである気がして崩れ落ちた。


 あの事故の後ユウを責める者は誰も居なかったが、それがユウを一層苦しめていた。


 一郎はユウに大きな手を差出し、ユウを立たせると、ユウを力強く抱きしめた。



「すまなかった…… 自分の悲しみばかりで、君が苦しんでいる事に気が付いてやれなかった。わたしも妻も、君のせいだなんて思った事は一度も無い。本当にすまなかった……」


 ユウは込み上げてくる涙を抑えきれず、一郎の胸で今まで溜まっていたものを吐き出すように泣き崩れた。