「真矢の母親は友紀子(ゆきこ)と言うんだが、私とは幼馴染で初恋の相手でなぁ」
と話だした。
大輔は本当によくあるパターンの話に、返す事葉が見つからなかった。
一郎は懐かしそうな目をし、話の続きをはじめた。
~一郎~
一郎は愛知県で生まれた。
父達彦(たつひこ)は金属工場を経営しており、母愛子(あいこ)も経理など手伝いながら一郎と弟二人を育てていた。
友紀子は近所に住んでいたが、友紀子が五歳の時に父親は交通事故で亡くなり、友紀子の母直子(なおこ)は達彦の工場で働き出した。
一郎は友紀子と同じ年で、学校から二人で帰っては直子の仕事が終わるまで一緒に過ごす事が多かった。
工場が忙しい時には夕食も一郎の家で食べる事も度々あり、達彦も愛子も女の子が居なかったので、友紀子の事を可愛がっていた。
特に達彦は父親のいない友紀子を不憫に思い、父親の必要な行事には父親役を買って出る事も多かった。
中学生になった一郎と友紀子は同じ剣道部に入部した。
友紀子は頭も良く、明るく活発で皆から信頼されていて、部長に任命されるほどだった。
一郎も明るくお調子者で皆からの人気もあり、二人でいるのが極自然な事だと思っていた。
しかし、一郎は父達彦とはあまり口を利かなくなっていた。
もともと無口で頑固な達彦を一郎は苦手だった。
ある日、一郎は友紀子を探しに部室に行く途中で、水道で顔を洗っている友紀子を見つけた。
声を掛けようと思ったが、水しぶきと共に上がった友紀子の顔が眩しく、立ち尽くしてしまった。
友紀子を綺麗だと思った瞬間から、一郎の友紀子への想いが恋となっていった。


