「こちらで……」
谷口が、ミラー越しに一郎を見た。
「ああ、かまわん」
谷口は車から降りると後部座席のドアを開けた。
大輔は一郎の気持ちを読んで行動する谷口に心の底から感心した。
さっき、冷ややかな目で見てしまった事を後悔した。
入り口抜けると、カウンターに居たバーテンが一郎に気が付き歩み寄ってきた。
深々頭を下げると、
「長谷川様、お久ぶりでございます。いつもの席でよろしいでしょうか?」
「空いているのなら、頼む」
「かしこまりました」
バーテンがボーイに手で合図した。
店の中は薄暗い明かりで落ち着いた大人の隠れ家とでもいうのか、静かに流れるピアノの演奏が心地よい。
店にいる客も気品があり、お酒とゆったりとした時間を楽しんでいるように思える。
一郎と大輔が案内されたのは、入り口から一番奥のソファーが大きな窓に向いている席だ。
窓からは横浜の夜景が夜の海の先に見える。
いったいここは何処なのかと大輔は困惑したが、まあ今は気にしない事にしようと思った。
「水割りを……」
一郎が頼み、大輔も同じ物を頼んだ。
ボーイが水割りと、高級そうなチーズとオリーブの盛り合わせをテーブルに置いた。
「真矢と私の事だが、話してもいいが良くあるパターンだと笑うなよ」
一郎が横目で大輔を見た。
「まさか、笑ったりなんかしないですよ」
一郎は窓の外の遠くを見つめ、ゆっくりと水割りを口にした。


