「しまった!」

 真矢が舌打ちした。


「陸ダメでしょ!」

 真矢が声を上げた。


 陸が振り向き真矢の顔を見て、一郎の手を引っ張るように走って逃げた。


 その先には、明るいライトが光るおもちゃ屋があった。


 しばらくすると、陸が大きなLEGOの青いバケツを、勝ち誇った顔をして抱えて出て来た。


「おねだりは駄目って言ったでしょ」

 真矢が顔を顰める。


「ねだってないもん」

 陸が一郎の顔を見る。


「ねだっとらんぞ。私が先に買ってやると言ったんじゃ」


「いつもすみません」

 真矢が頭を下げる。


「これも私の楽しみじゃ。気にしないでくれ」

 一郎は、満足そうな笑みを見せた。


 真矢は腰を低くし、陸の目線に合わせた。


「良かったね。ちゃんとお礼を言いなさい」

 真矢は優しくほほ笑んだ。


「じぃじ、ありがとう。今度はいつ会えるの?」


「又、時間が出来たら連絡するよ」


 一郎は大きな手で陸の頭をやさしく撫でた。


「じぃじ、運動会は来てくれるよね」


「いつだ?」


「十月の体育の日です。無理しないでください」

 真矢が、申し訳なさそうに答えた。


「まだ先だから何とかなるだろう。楽しみにしているよ」


「やったあ。絶対だよ」


 一郎は陸をもう一度抱き寄せると「それじゃあ」と手をあげた。


 一郎の横には谷口の運転する車が止まり、運転席から谷口が降りてきた。


 大輔は、このどこにでもある、ごく普通の三人のやり取りを、微笑ましく思って見ていた。

 心の中が暖かくなる感覚が、気持ちよかった。

 それと同時に、さっきの真矢の青ざめた顔が気になっていた。

 
 真矢はもう一度丁寧にお礼を言うと、陸の手を取り駅の階段を下りて行った。


 大輔も後を追おうとしたが……

「大輔、話がある。乗れ!」

 一郎の声に、足を止めるしかなかった。


 大輔は真矢と帰りたかったが、断る事も出来ず仕方なく一郎の車に乗り込んだ。