一郎は真矢の手が、大輔の腕にあるのを確認するように見ると陸の方を向いた。


「陸、じぃじと一緒に駅まで歩こう!」


 一郎はそう言うと、谷口に手で合図を送った。


 一郎は、陸と手を繋ぎ駅に向かって歩き出しした。


 その声に真矢は我に返ったように、大輔から手を離した。


 一郎と陸の後ろを真矢と大輔は並んで歩いた。

 真矢の顔がいつもの表情に戻っり、大輔はほっとした。


 大輔は真矢に話かけたかったが、今の出来事が頭から離れず言葉が出ない。

 今は真矢に聞いてはいけない気がした。


 それより先に、真矢に謝まらなければいけない事が幾つがある。

 梨花の事か? 

 それより夕方の巨乳の事か?

 巨乳の言い訳をするのも又怒られそうだし、何から切り出せばいいのか迷っていた。



「年末年始、うちでチャーター便のシンガポールツアーの企画があるんですね」

 真矢の方が先に口を開いた。

 穏やかな口調に、大輔は少しほっとした。しかし、仕事の話である事にがっかりもした。



「深夜便という事もあるけど、年末年始にしてはコストがいいからな、直ぐに売り切れになるんじゃないか」

「年末年始にシンガポールいいですよね。マリーナベイサンズの夜景と花火なんて興奮しそう」


「そうか? めちゃくちゃ混んでいるぞ。平日に行けばゆっくり出来るのに、年末なんて展望エレベーターまで何時間待つ事やら」


「行かれた事あるんですか?」


「一度、急に添乗頼まれてね。年末年始、家族も無く自由の身の社員は突然駆り出される事もあるんですよ」

 大輔は下唇を出し、不服そうな顔をした。

 
 その時、目の前を歩いていた一郎と陸が突然手を繋いで走りだ。