見積書事件の後、皆が梨花の仕業だと言い始め、社長に報告したほうがという意見も出たのだが、皆に社長の娘という事は忘れ指導して欲しいと頼んだのは真矢だった。

　社長に報告したら梨花は研修を途中で辞めてしまうだろう。

　真矢は梨花に最後まで研修させて、仕事を教えたいと言った。

　大輔も責任は自分が取るから、研修生として正しい指導をしていく事を選んだ。



　
　大輔は梨花の言葉に混乱していた。


　以前、一郎が横浜支店へ来たとき、帰り際に真矢に目で合図をしていた事を思い出して苛立っていた。


　一郎が、ミーティングルームに戻ってくる大輔と目が合うと、真矢の側へ歩み寄った。



　大輔がドアを開けるとほぼ同時に、真矢の耳元でささやいた。


「今夜あたりどうかね？」


「いえ、そんな……」


　真矢が困ったように下を向く。



　大輔はどうにもならない苛立ちを抑える事が出来なかった。


　一郎に歩み寄り、真矢をかばうように立った。