風と今を抱きしめて……

「今後このようなミスが無いよう、原因追究し社員皆の意識を改めます」

　大輔が深々頭を下げた。

　真矢も続けて頭を下げる。


「うむ。頼んだぞ。しかしな、良く考えてみなさい。金額を少なく見積もってあるのだから、別にわしの方から君達に伝える必要は無かったのだがね」


「では何故？」

　真矢が聞く。


「このイタリア旅行が、結婚四十周年の記念に家内に内緒で孫娘と計画を立てておったのは知っていると思うが……　孫はまだ高校生だが、旅行の計画と見積もりを見せたら、桁が違うんじゃないかと言ってきてな。すごいと思わんか？　
　このままでもいいかと思ったのだが、孫が真矢さんが困るんじゃないかって言いおってな。わしにそっと真矢さんに伝えてくれと言いうんだよ。
　確かにこのままだと大事になって真矢さんが責任を取る事になるな、とわしも考えたんじゃよ。」

　荒井がそこまで話すと、ドアがノックされ秘書がコーヒーを持って入ってきた。

　真矢と大輔の前にもコーヒーを置いた。


　荒井がコーヒーを飲むよう促しながら、話を続けた。


「家族旅行の見積もりだし、こっそりミスを教えても良かったのだが、このままだと同じミスがまた起きると思ってなぁ。次は本当に大事になるかもしれんから、支店長には伝えて同じ事を繰り返さないよう考えてもらおうと思って連絡したのだよ。
　思った通りすぐ飛んで来たから話が出来て良かった。わしも良い所があるじゃろぅ？」


　荒井は、真矢を同意を求めるように見た。