風と今を抱きしめて……

 次の日、真矢は病院から検査の結果異常が無いので退院出来ると言う連絡を受け、仕事を定時に終わらせ急いで病院へ向かった。

 陸の病室に向かうと、病室の廊下の椅子に大輔と陸が座っていた。


「どうしたの?」

 真矢は、慌てて駆け寄った。


「なんか気になって立ち寄ったら、看護師に退院になりますよって言われて…… 荷物まとめて下さいって言われたから、荷物まとめていたら、退院の手続きはこちらです、って言われて、手続したらこうなった。」

 大輔はまとめた荷物と、きれいに片づけられた病室に目をやった。

 
 真矢は思わず大笑いしてしまった。

 陸もニコニコと嬉しそうだ。


「会計してくるね」

 真矢が歩きだした。


「それも済んだ」

 大輔が、疲れた様子で言った。


「えっ。すぐお返しします」

 真矢が笑いをこらえて、財布開けようとしたのだが……

「後でいいよ。送って行く」

 大輔が、陸を抱き上げ歩きだした。


 外は薄暗くなっており、すれ違う車はスモールランプを着けて走っている。

 車の中、後部座席に真矢と座った陸は、すっかり元気になって歌を歌っている。

 車などあまり乗る事が無いので嬉しいのであろう。


「ママ、今日ハンバーグがいいなぁ」


「駄目よ。病み上がりなんだから、今日は消化の良いうどんよ」

 真矢は、呆れて言った


「え~。じゃあ、おじちゃんも一緒に食べて行ってよー」

 陸がせがんだ。


「うどんじゃおじちゃん食べないよー。おじちゃん忙しいんだから。」

 真矢は、陸をなだめたのだが……


「俺、日本に来てから外食とコンビニばっかりなんだよなぁ。うどん食いたいなぁ」

 大輔の思いがけない言葉に、真矢は戸惑った。


「やったあ。うどん食いたいって、ママいいよね」

 陸が手を叩く。

  
「本当にうどんしか無いですよ」

 真矢は、確認するように言った。


「あーうどん食いたい」

 大輔は、おどけて言った。


 真矢は、まだ入院費も返してないし、仕方ないとあきらめる事にした。


「うどんしかないけどどうぞ」

 真矢は大輔の運転する姿を見た。

 大輔は、笑っていた……