「はぁっ!」
 幼き少女はその体型や可愛らしさとは相反するような刀を片手に、血が飛び交う戦場を駆ける。屍が転がり、赤々とした水溜まりが、雨が降って少しぬかるんだ地面に多々ある。大人でも慣れなければ転びそうになるその場所で、少女は足をとられることも無く、ひょいっと跳ねる。
 兎の如く飛びながら、虎の如く獲物を狩る。靡く黒髪が鮮血を掬って朱が千々に跳ねる。少女は確実に頸動脈を狙い、斬る。それなのに少女の小さな身体には一つのかすり傷も無い。
 「…はっ……」
 短く息を吐いたのは、その戦場に居る敵を全て殺し終え、戦闘による高揚感を抑える為の物だった。陰陽師の服に似た、己の服に血が付き、気持ち悪いとでも言うように、嫌悪感に満ちた顔をする。少女は柄に美しい龍が刻まれた自らの刀の血を懐紙で拭い、違う戦場へと歩を進めた。
 
 時は戦乱の世。殺し殺され、奪い奪われが延々と続き、血を血で洗う時代。所詮はくだらないいさかいだったであろうこの戦争は鎮まる気配は一向に無い。争いからは何も生まれないと知っていながら、復讐心に駆られ、人々は刀を手にするのだ。なんて馬鹿なんだろうと少女は人類を哀れみ、嘲笑する。
そう思っている癖に殺された弟の為、と剣を握っている。
 笑いが出てくるな、と見た目の年齢とは裏腹に、大人びた考えを持っている少女。木々の上を駆け、敵の背後から襲い掛かり、確実に殺す。溢れる血が敵の仲間の顔にかかる。絶望で光を失った目は、今や開かれることはない。
 またしても敵を殲滅し、血を拭う。今度は味方が住む里へと駆け出した。すると、後方から殺気が来る。
「ガキだろうが殺してやんよ‼」
虎派──貪欲な者達が集まった集団で、その活気に溢れた集団に憧れ、亡命する者は多い。だが、正面から一騎討ちしようとする者も多く、戦死者も多かった。
「虎派流儀・火焔弾!」
口から出される多数の焔が少女目掛けて飛ぶ。このままなら少女は焼死体になりかねない。しかし、それで死ぬ程弱くは無いのである。
「龍派流儀・蓮花翔」
何処からか現れた水の蓮が宙に浮かんでいる。その花弁は散るように『虎派』と名乗る者の首筋を狙っていく。ゆっくりとでは無く、気付いたら其処に迫っているという速さ。
 威勢良く襲い掛かってきた男は気付くのが遅かった。蓮の花が薄い赤色にかわる。