「先輩、」

風の通る屋上。
まだ少し冷たさを残した風が
桜の匂いを運んでくる。

すっと息を吸うと、
自分の中に冷たさが入ってきて
目元の熱が下がるような気がした。

「…卒業、おめでとうございます。」

誰もいないここで、
彼に“おめでとう”を告げた。

これは、予行練習。

緊張で固まりませんように。
声が震えませんように。
泣いてしまいませんように。

朝からずっと神頼み。

だって、自分の意思だけなら
無意識に泣いてしまうと思うから。

よし、次は笑顔で…