バッグを握りしめてドアに手をかけた。



「デート、楽しかった?」

「うん」

「でも、外で“先生”はまずいよな」

「うん」

「じゃ次のデートは名前、だな」

「…うん」



先生は笑って、またなって言うと、ドアに手をかけたままのわたしの頭に手をやった。



車を降りて、先生の車を見送る。



─ わたし何やってんだろ。



さっきまで先生の手が触れてた頭を撫でて思う。



─ せっかくのせっかくのデートなのに寝ちゃうなんて。



遠くの街で1つだった星は、何千倍にも増えて夜空に広がる。



帰ってきたことを実感させられて、なぜだか切なくなる。



だけど、家について玄関部屋にたどりつく頃には、先生の見慣れない格好や仕草のひとつひとつが浮かんで、帰り際の言葉が繰り返されて。



夏休みの間に、2回目のデートができることを強く祈った。