なぁ……起きたくないよ……。
カーテンの隙間から淡い光が零れる。
嫌だ……現実に眼を向けたくない。
ベッドで頭から布団を被り、縮こまった。
本当は学校に行かなければならないのに……。
時計の針は、もう長い方を「一二」、短い方が「九」を指している。
こんな事をしている場合では無いことは確かで、自分自身でも分かっているのに。うだうだした気持ちは何時までも消えない。
昨日もこの繰り返しだった。
窓越しで聞こえてくる音はどれもが楽しげだ。うんざりする。
自分は不幸じゃない、恵まれている方である。自覚はある。ただ、その環境が自分にとっての重みになった。
元々は、こんなことしたことも無かった。学校を入学早々、遅刻が絶えないなんて。
正直、周りが怖い……。教室に入るだけでも癌になりそうだ。肺が痛くなる。
しかし、結局のところ、制服に腕を通してみる。親からの優しい言葉が胸に刺さるから。やけにプレッシャーになって、冷や汗が止まらなくなる。
「はぁ…はぁ…」
動悸と目眩が激しくなり、立つことがままならない。壁に寄りかかり、しゃがみ込んだ。
もう……駄目な気がしてくるのは私が弱いからだろうか。
また、膝を抱えて縮こまってしまった。
行きたくない。
両側から押しつぶされる圧迫感。どっちに転がったって、どちらとも良いとも悪いとも言えない。最悪。
顔を上げては部屋をぼぅっと、見つめるだけ。とうの昔に涙なんて、枯れた気がする。
「嫌だ……」
そう呟いた空な部屋は当然のように佇む。ドアの前でしゃがんで、こうしているのは簡単な事なのだ。甘えて居るのか。
駄目なのだと、いくら自問自答した所で答えが出ることは無かった。
「……ぅ」
膝を抱えたまま、寝ていたようだ。
カーテンの外は一層、明るさを増している。
また、頭の中に過ぎる選択肢。行くのか、行かないのか。
座っていたフローリングが暖かくなっていた。スカートに皺が付いてしまったかも知れない。
私はどうしたらいいの。何処へ行ったって、八方塞がりの路地。
折角、制服を着たのに。私はどうするべきなのか。
たぶん、多くの人は行くべきと答えるのだろう。
でも、私には、それが出来ない。どうしても動けない。何度も、何度も分かっているのに。進まない。
このまま、また一日が終わってしまう。それも嫌だ。
矛盾する心に答えなど出るはずも無い、どこかで踏ん切りをつけなければ。
何時も思う。そう思って、ダラダラとした時間を過ごす。
嫌だ……。だけれど、部屋から出られない。
掛け時計は変わらず、時を刻む。残酷に、無慈悲に。出来るなら、戻って欲しい時間。
後悔と嫌悪をしなくていいところまで巻き戻して、新しい人生を始めたい。
はぁ。
そう、溜息と共に。
『今日も、また無理だった』
そういう感情だけが残る悪循環。扉の前でただ座って居ただけ。無意味な一日。
黒い質素な制服の上着を丁寧に脱ぐとクローゼットを開けて、奥へと押し込む。
スカートのホックを外して、脱いだ。制服を掛けたハンガーに一緒に掛けて、扉を閉める。
シャツ一枚の状態になり、そのままベッドに倒れ込んだ。
手に届く位置にあった枕を抱きしめると何時もの様に一日を終わらせた。
周りの環境と切り離されたいなんて、思いながら。