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“2019.11.23 Epilogue”
「あぁ、こら!
凌太ーっ。
早くしないと保育園遅れるだろーっ」
「いやだ!!
きょう、ほいくえん、いや!」
「……また今日もかぁ……」
世間様は東京オリンピックがもうすぐだと盛り上がる中……。
オレは小さな王子様にタジタジな今日この頃……
もうすぐ3才になる凌太は第一次イヤイヤ期?なるものにさしかかったらしく……。
あれも嫌、これも嫌で毎日遅刻ギリギリかギリギリアウト。
生活も余裕もゆとりもないけれど、凌太がいてくれる日々はかけがえのないものだ。
「ぱっぱ!
これ、だぁれ?」
「え?
あ、この人は凌太のママ、だよ」
「まぁまー?」
「そうそう」
また忘れて地べたに置いていたスマホ。
それを見つけ、最近覚えたスマホの電源をつける技を遺憾無く発揮した凌太。
ロック画面に映るのは麻衣と最後に家で撮ったあの写真。
麻衣が初めてシャッターを押してくれた写真だ。
「まぁ凌太にはまだ分からないかもな」
「いや、いや!」
「はは。はいはい。
凌太は偉い偉いだよな?」
口調から見下されたと思い込んだらしい凌太がぐずるから小さな頭をよしよしと何度も撫でる。
すると凌太は麻衣によく似た顔で笑ってくれる。
宝物のような笑顔だ。
「よーし!
今日だけパパが抱っこして保育園連れてってやるっ。
保育園行く人ー?」
「はぁいはぁーい!」
「いい子いい子だっ」
ピョンピョン跳ねる最愛の我が子の姿に目を細める。
抱き上げて感じる少しずつ重くなってくるその重みは幸せの象徴。
腕が痺れたってそれすらも愛しい。
麻衣が精一杯産み落としてくれた凌太はその抱き寄せた胸元から力強い鼓動を響かせ今日をまた生きていく…────────
天国にいる麻衣へ。
オレは今日もとても幸せな1日で、また写真を沢山沢山撮りました。
凌太は少しずつ、でもちゃんと大きくなっています。
あともう少しすればランドセルを買ってあげなきゃいけないな。
何色にしようか?
……うーん、ちょっと気が早い?
まぁ、そうやって想像している時間が今は一番の生き甲斐で楽しくて仕方無いです。
いつか凌太にも大切な人が出来たら……
沢山沢山その人を写してほしいと思います。
それがその人を色褪せずに残しておける一番の方法だと思うから……。
麻衣の仏壇の前で手を合わせ、心の中でそう呟いてから。
毛布を蹴飛ばしていた凌太へそれをかけ直しオレも隣で眠りにつく。
もう二度とこない今日はまた1日静かに終わりを告げた…────────
【END】



