麻衣は妊娠が発覚する前に酷い頭痛に襲われ、病院へ行った所……



酷い頭痛の原因は脳内にあった悪性の腫瘍だったらしい。


その後、妊娠が発覚し腫瘍の手術は難しい上に治療を優先した場合はお腹の子供は諦めるしかないと選択を迫られた。



そんなこと……オレは何も知らなかった。


どうして麻衣なんだ……


そんなぶつけようのない悔しさが溢れてしまう。




「奥様は誰よりお腹のお子さんの命を大事にと話していました。
私も出来る限りのことをしたいと技術力のある病院をいくつか紹介しました」




その候補の病院のうちの1つの検診日が……



この前、麻衣が検診に1人で行くと言っていた日だった。



大きなお腹を抱え、1人で電車を乗り継いで遠くまで通ったそうだ。




「オレはっ……何のために……っ!
麻衣のために……何もしてやれなかった……!」


「ご自身を責めることはきっと奥様は哀しまれることでしょう……。
最愛の方を亡くされることはこれ以上ない哀しみです。
それでも……奥様が命を懸けて残してくださった新しい命を……どうか」





……そうだ。

もうオレは1人ではなくなったのだ。


麻衣の夫になり、一児の父になった……。


凌太を独りにさせては駄目だ。




「……そう、ですね……。
ここで泣きべそをかいていたら……きっと麻衣は笑います……」





天国にいる麻衣へ……聞こえているかな?


オレは……何があってもここにいる。


凌太のために、そして……


我が子のために命を繋いだ麻衣のためにも…────────